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突然、脳梗塞で右片麻痺になってしまったら?
~機序や特徴、リハビリまとめ~

突然脳梗塞になって右片麻痺になってしまったら。

突然、家族やご自身、または親しい人が脳梗塞になってしまったら、皆さんはどうしますか?

脳梗塞では梗塞されてしまった部位によって、様々な症状が引き起こされます。
しかし、右片麻痺か左片麻痺かで症状の大部分は予測できます。

今回、右麻痺の方の特徴、左麻痺の方の特徴、そのリハビリについてまとめました。



・脳梗塞とは
・脳梗塞は突然やってくる
・病気によるリハビリの違い
・急性期リハビリテーション
・回復期リハビリテーション
・在宅期リハビリテーション

脳梗塞とは

脳梗塞とは、脳内の血管が塞がり、その結果、酸素と栄養素の供給を受けることができない脳の一部が壊死する状態を指します。この状態が引き起こされる主要なメカニズムは二つあります。
一つは、体内の他の部分で形成された血栓(血液が固まって作られる塊)が血管内を移動し、脳内の細い血管を塞いでしまう状態です。これらの素因には血小板異常症や血液凝固異常症などがあります。
もう一つは、血管の壁に形成された動脈硬化(血管が硬く、厚くなる状態)のプラーク(血管内膜にできた塊)が破裂し、その結果として新たな血栓が形成され、血流が遮断される状態です。これは加齢とともに起こる動脈硬化だけが原因ではなく、いわゆる生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症・内臓脂肪型肥満・睡眠時無呼吸症候群など)や喫煙者などに多く見られることがあります。

脳梗塞は突然やってくる。

脳梗塞の症状は通常、突然現れます。そしてその症状は多岐にわたります。
ですが、損傷した脳の領域によって特徴があります。具体的な症状は損傷の程度と位置によりますが、以下のような症状が一般的に起こります。
表はそれぞれ、脳の左側(左半球)、脳の右側(右半球)で起きた場合をまとめております。
脳の左側(左半球)が損傷を受けると、その効果は身体の右側に表れます。
①右片麻痺
最も一般的な症状は、身体の右側(顔、腕、足)に力が入らなくなることです。これは、左半球が身体の右側を制御しているためです。その他に逆に力が抜けにくくなってしまい、自分の意志では上手く動かせない状態になります。
②言語と認知の問題
左半球はしばしば言語、計算、論理思考、分析的な思考などのタスクを担当しています。したがって、左半球の脳梗塞は、話す能力(発話)、言葉の理解(理解)、読み書きの困難、数字の理解の問題(失算)を引き起こす可能性があります。これは、ブローカ失語(発話が困難)、ウェルニッケ失語(理解が困難)、アレクシア(失読)、アグラフィア(失書)など、さまざまな形式の失語症の原因となります。
③行動と人格の変化
左半球の損傷は、患者の行動や人格に影響を及ぼす可能性があります。これには、情緒の変動、抑うつ症状、不安などが含まれます。
④利き手の問題
左半球の脳梗塞は、特に右利きの人に大きな影響を与えます。書く能力や細かい手の動きを制御する能力に影響を及ぼすからです。
脳の右側(右半球)が損傷を受けると、その効果は身体の左側に表れます。
➀左片麻痺
最も一般的な症状は、身体の左側(顔、腕、足)に力が入らなくなることです。これは、右半球が身体の左側を制御しているためです。その他に逆に力が抜けにくくなってしまい、自分の意志では上手く動かせない状態になります。
②空間認識能力の障害
脳の右半球は、形や位置、距離などの空間認識に重要な役割を果たしています。そのため、右半球の損傷は、人々が自分の身体や物の位置を正確に認識する能力を損なう可能性があります。これは「無視」の症状とも関連しており、患者は自身の左側の身体部位や左側の視野を無視してしまうことがあります。これらを左半側空間無視とも言います。
③認知と記憶の問題
右半球はしばしば全体的な思考、直感、創造性に関与しています。損傷はこれらの能力に影響を及ぼし、問題解決の困難、記憶の問題、注意力の低下などを引き起こす可能性があります。
④感情の問題
右半球の損傷は、情緒的な問題を引き起こす可能性があります。これは、急性の感情的な反応や情緒的な制御の喪失を含む可能性があります。
これらの症状は個々によって異なります。また、これらの症状がすべての人に現れるわけではなく、一部のみ現れる場合もあります。周囲の方(家族や友人、介助者など)が特徴を理解するだけでも、脳梗塞を発症した方は安心します。
もし上手くコミュニケーションが取れなくても、それはその人自身の問題ではなく、脳梗塞による影響であると思うだけでも、様々な物事が理解できるようになるのではないでしょうか。

病期によるリハビリの違い

急性期のリハビリテーション

脳梗塞の直後は、まず生命の安定と状況の安定化が優先されます。
この段階では、病状の進行を抑えるための治療が行われ、新たな脳梗塞のリスクを最小限に抑えることが目指されます。急性期の治療には通常、抗血栓薬や抗凝固薬、血圧や血糖値をコントロールする薬物が用いられます。

脳梗塞からの回復では、リハビリテーションが重要な役割を果たします。
リハビリテーションの目的は、麻痺した身体の機能を最大限に回復させ、日常生活の自立を目指すことです。リハビリテーションは、理学療法、作業療法、言語療法など、さまざまな専門分野のプロフェッショナルによって提供されます。

リハビリテーションは可能な限り早期から開始することが推奨されます。急性期のリハビリテーションは、主に以下のような内容を含みます。
1.身体機能の評価と理学療法: リハビリテーション専門家が患者の身体機能を評価します。これには、筋力、感覚、調整能力、バランス、身体の一部の制御などが含まれます。

2.基本的なADL(生活動作)の練習: 初期段階から、基本的な日常生活動作(食事、移動、トイレなど)の練習が始まります。これは、自立した生活を目指すための重要なステップです。

3.スワローイング(嚥下)トレーニング: 脳梗塞により飲食時の嚥下機能が低下する場合、専門家の指導のもとで嚥下訓練が行われます。

4.言語療法: 言語障害がある場合、言語聴覚士による早期の介入が行われます。

急性期のリハビリテーションは、病院やリハビリテーション施設などの医療機関で行われます。

リハビリテーションチームは通常、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士などから構成されます。

回復期のリハビリテーション

急性期を経て生命の安定を得た後、回復期のリハビリテーションが始まります。
この段階では、生活の質の改善と機能の回復が目指されます。

具体的なリハビリテーションの内容は、患者さんの状態や障害の程度によりますが、以下のような要素が含まれます。
1.理学療法: 筋力と座位保持、立位保持、歩行能力の改善に重点を置きます。理学療法士は、麻痺した肢の拘縮を予防と筋力を強化し、バランスと歩行能力を改善するためのエクササイズを指導します。

2.作業療法: 作業療法士は、日常生活動作(食事、着替え、トイレ、調理、洗濯など)の遂行能力を再学習するための訓練を行います。また、自宅での生活を支援するための補助具の使用方法も指導します。

3.言語療法: 言語・認知障害のある患者は、スピーチセラピストと共に言語能力の回復を目指します。また、言語聴覚士は嚥下訓練も指導します。

4.認知訓練: 記憶、注意、問題解決能力などの認知機能の改善を目指します。

回復期のリハビリテーションは、通常、リハビリテーション専門の医療機関で行われます。

ここでは、1日2~3時間程度のリハビリを毎日行います。365日リハビリと言われますが、自宅退院、社会復帰に向けて重要な時期とも言えます。

在宅期のリハビリテーション

在宅期のリハビリテーションは、自宅での生活を支えるための継続的なリハビリテーションです。
ここでは、既に獲得したスキルの維持と、可能な限り自立した生活の達成が目指されます。
また、介護保険など認定されている方は医師の指示書があれば訪問リハビリテーションとして自宅で行うこともあり、最近では特徴のあるデイサービスやデイケアが増えています。
1.理学療法: 在宅期でも、定期的に理学療法士とリハビリを行い、筋力とバランスを維持することが重要です。

2.作業療法: 作業療法士は、生活の中で新たに生じた課題に対応するための支援を提供します。また、自宅での安全性を確保するためのアドバイスも提供します。

3.言語療法: 在宅期でも、言語・認知能力の維持と改善を目指してスピーチセラピーを続けることが推奨されます。

4.適応補助具: 必要に応じて、歩行器、杖、車椅子などの補助具を利用することで、日常生活の自立性と安全性を向上させることができます。

5.日常生活の適応:家庭での作業効率を最大化するために、家の配置を変更したり、特定のタスクの遂行方法を変更したりすることが有用です。例えば、頻繁に使用する物を身体の非麻痺側に置く、一つの作業を複数の短いステップに分割するなどの工夫があります。

6.心理的サポート:脳梗塞後の生活は、身体的な挑戦だけでなく、精神的なストレスも伴います。心理療法、カウンセリング、サポートグループなど、心の健康を保つためのリソースを活用することが重要です。

7.栄養: 健康な食事は、リハビリテーションの成功に大きな影響を与えます。体重管理、血圧や血糖のコントロール、脳梗塞の再発予防など、健康状態の改善に役立つ食事計画を立てることが推奨されます。

8.生活スタイルの改善: 脳梗塞の再発を防ぐためには、健康的な生活習慣を維持することが重要です。禁煙、アルコールの摂取を控える、適度な運動を行う、ストレスを管理するなどの生活スタイルの変更が有用です。
在宅期のリハビリテーションは、患者自身とその家族が中心的な役割を果たします。
しかし、リハビリテーションのプロフェッショナルたちが継続的に指導と支援を提供することで、自宅での生活が向上し、生活の質が維持されます。

また、自宅での過ごし方についても幾つかの重要なポイントがあります。
身体活動: 軽いストレッチングや歩行など、日常的な身体活動を継続することが重要です。無理をせず、自身のペースで活動を行いましょう。また、定期的にリハビリテーションの専門家と連絡を取り、状態を報告することも必要です。

食事: 健康的な食事は非常に重要です。特に、高血圧やコレステロール値を下げる食品を選ぶことを推奨します。これには、新鮮なフルーツと野菜、全粒穀物、低脂肪の乳製品、魚などが含まれます。

心の健康: 精神的な健康も肉体的な健康と同じくらい重要です。リハビリテーションは困難であり、ストレスやフラストレーションを感じることがあります。このような感情は正常ですが、それらがあまりにも強くなったり、長期間続いたりする場合には、心理カウンセラーや社会福祉士といった専門家に相談することをお勧めします。

安全な生活環境: 転倒や事故を防ぐために、家の中をできるだけ安全にすることが大切です。例えば、滑りやすい床にはマットを敷く、手すりやバーを設置する、通路を広く保つなどの工夫があります。
脳梗塞からの回復は時間と努力を必要としますが、適切なリハビリテーションと日々の生活習慣の改善により、生活の質を改善することが可能です。
自分自身や家族が情報をしっかりと理解し、専門家と協力することで、より良い結果が得られます。

脳梗塞後のリハビリテーションは長期的なプロセスであり、患者とその家族、医療チーム全体の努力が必要です。
それぞれの段階での目標は異なりますが、すべての段階での最終的な目標は、患者が最大限に自立し、生活の質を向上させることです。
いかがでしたでしょうか。

突然、家族やご自身または親しい人が脳梗塞になってしまったら、当然困惑してしまうと思います。しかし、病気の事、これからの事を知るだけでも様々なことに心の準備ができると思います。

リハビリベースでは相談も受け付けております。
是非お気軽にご相談ください。

よりアクティブな目標を叶えるお手伝いをさせていただくことが、リハビリベーススタッフ一同の願いです。
2023年7月26日作成
2024年2月6日編集

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この記事を書いた人

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地

原嶋崇人 リハビリベース国分寺院長 運動器認定理学療法士

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地域高齢者に対しての介護予防や転倒予防事業の講師などを行っている。

脳血管リハビリテーション④(小脳)

脳血管リハビリテーション④(小脳)

今回は、脳血管リハビリテーションの続編、小脳に関しての働き、または小脳出血後遺症の特徴と、アプローチ方法に関して話していきます。
小脳は、前回の脳血管リハビリテーション③で述べた脳幹の後ろに位置しています。
脳幹(中脳、橋、延髄)に隣接しており、それぞれ小脳と協同して働く連絡通路が存在します。
小脳は、大脳小脳、脊髄小脳、前庭小脳に区分されています。発生学的に、古い順番から古小脳(前庭小脳)、旧小脳(脊髄小脳)、新小脳(大脳小脳)という呼称もあります。
脊髄小脳は、虫部と中間部に分かれます。大脳小脳は、脊髄小脳の外側の部位を指します。
前庭小脳は、一番下に位置しています。MRI画像でも、小脳は、脳幹の橋、延髄レベルの横断面にて確認できます。橋上部で上小脳脚、橋中部で中小脳脚、延髄上部で下小脳脚と呼ばれる、脳幹と小脳を結ぶ経路があります。

小脳の位置、構造

図1:大脳と脳幹、小脳の位置

小脳の役割

小脳の代表的な働きとして、「協調運動」が挙げられます。
協調運動とは、相互に調整を保ちながら、複数の筋によって滑らか、かつ正確に運動することを言います。随意運動に関しては、脳血管リハビリテーション②で説明した、意思によって身体を動かすことを指します。
この随意運動の中でも、動きを協調的に生み出している経路の一つとして、小脳は大きな役割を担っています。協調運動の代表的な検査として、図2の指鼻指試験があります。これは、自分の鼻と、相手の指や一点の標的に対して、指を往復させることで、動作の滑らかさと、標的に対して正確に到達しているかを、検査します。協調性が失われると、手のリーチがぎこちなくなる、標的に対し、大きくズレが生じてしまうといったことが見られます。日常生活では、水が入ったコップを掴み、口に運ぶ。物を棚の上に置く。脚に関して言えば、階段を円滑に登り降りができるといった動作も、協調運動が必要です。
より細かく見てみると、小脳の働きは、先ほどの小脳の区分にあったように大脳小脳、脊髄小脳、前庭小脳の3つに分けられます1)
一つ目に、大脳小脳は、視床と橋を経由し、大脳に行く運動指令を、小脳にてコントロールしています。
次に脊髄小脳は、虫部と半球中間部からなり、体性感覚を統合し、脳幹へ伝達しています。また、小脳虫部は体幹の制御を、中間部は上下肢の制御を行っています。
三つ目の前庭小脳は、耳でとられたバランス等の情報を、脳幹の前庭神経核という部分に情報伝達しています。脳血管リハビリテーション③でも述べた耳の前庭感覚によるバランス情報も、小脳を経由し脳幹に集められています。外部からの情報は、視覚や体性感覚、前庭覚が、それぞれの受容器から情報入力されますが、それらの情報が脳の中心部に向かう経路や、情報を統合してまた身体へ送り出す経路は、たくさんあります。
失われた障害経路を特定し、得られやすい、または効果的な方法をリハビリの中で探っていくのも、一つの大事な行程になります。
図2:指鼻指試験
図3:小脳の解剖

小脳性運動失調

小脳の部位と働き、また脳幹や大脳との関係性を理解したところで、次に小脳の脳卒中で引き起こされる、後遺症に関して述べていきます。
小脳の代表的な特徴である協調運動に関して述べましたが、特に脊髄小脳の役割である、筋緊張の調整は、リハビリを進めていく上で非常に大切な機能になります。脳卒中では、運動神経の経路が絶たれ、片麻痺の状態になるこが、非常に多いケースとしてあります。小脳に関しても、片側での麻痺が出るケースもありますが、随意性、筋出力は良好なことがあります。筋力は発揮でき身体は動かすことができるが、上手く調整して動かすことができないといった特徴が、小脳の後遺症にあります。この協調性のように、四肢や体幹の運動調整が失われることを「失調」と言います。特に脊髄小脳では、脳出血や脳梗塞による侵襲部位により、体幹や上下肢のどこに強く失調の症状が出るか、ある程度定まってきます。
小脳性運動失調の特徴のもう一つとして、眼球運動や視覚的な情報が、失われやすいです。
これは、前庭小脳が、平衡や眼球運動を担っているため、眼球運動が直接的に障害されることもあれば、姿勢制御の中で協調運動が上手く行えずに、周囲へ向きづらくなるといった理由もあります。人は、無意識下、または予測的にバランスを保っていますが、小脳性運動失調がある場合は、身体が上手くコントールできずに”固定的”になってしまいます。固定的という現象は、具体的に一つ一つの筋肉が”選択的”に働かずに、粗大な筋肉を緊張させて姿勢をとるという現象です。
小脳性運動失調に特徴的な姿勢としては、腰や背中から頸部まで、一直線に固定される。身体を捻る回旋の動きや方向転換など、細かい動きが必要な動作に対して、非常に弱いとこも特徴の一つです。また頸部が固定的になることから、頭を回旋して周りを見回すような動きもしづらく、眼球運動の動かしやすさを阻害する悪循環が存在します。頸部から頭部の動き、または眼球運動は、関係性が強く、姿勢筋緊張に対しても、眼球運動への影響は大きい報告されています2)
前回の脳血管リハビリテーション③では、バランスの中で視覚の重要性を述べましたが、小脳の姿勢制御と、視覚的なバランス保持は、小脳性運動失調に対してのリハビリに、必要不可欠です。

小脳性運動失調に対してのリハビリ

一様に小脳の後遺症に対してのリハビリは、これが必要とは言いきれません。
脳出血によっては、小脳とまたがり脳幹の一部で侵襲が起こり、片麻痺を呈する場合もあります。まずは、脳画像により侵襲部位を確認することや、身体の症状として、随意性や協調性運動、痺れや感覚の検査を行い、障害部位を具体化していきます。それから、立ち上がりや立った姿勢、バランスの状態や、移乗などのステップ動作、歩行を観察し、総合的に評価していきます。
先程述べた、小脳性運動失調に対しては、失調部位を明らかにしてから、協調性の向上を図る動作も行いますが、個々の細かい筋肉を選択的に使う、そして強化するという行程を踏んでいきます。具体的には、寝返りや四つ這い運動、起立からリーチ動作など、体幹や四肢をより選択的に細かく動かすことで、失調に対し協調性を育んでいきます。座った姿勢や、立った姿勢に対しては、失調により上手くバランスが保てないことに対し、鏡を使用した視覚的情報による代償や、裸足で足底からの感覚を掴みやすくするなど、より本人に効果的に働く感覚入力を行っていきます。
脳血管リハビリテーション②で述べた、障害部位に対して、残存機能を上手く利用していくことは、最終的に障害部位を改善させることにつながります。最後に、リハビリの中でも一番の量を取りたい動作は、歩行になります。歩行が生み出されるプロセスとしても、小脳は、小脳歩行誘発野と呼ばれる、歩行リズムの生成を担っており3)、無意識下での姿勢制御や、歩行での選択的な活動を総じて上向かせることができます。注意点としては、固定的な姿勢ではなく、より良い歩行の中で、量を生み出していくことが大切です。
質と量を重ねることで、効果的な学習効果をえることが出来ます。中には、歩行の不安定さが強く、歩行器や手すりを使用して、一時的な期間、日常生活を送ってもらうケースもあります。本来では、支持物はなく歩行改善を目指していきたいところですが、転倒のリスクや1人で行える環境も考慮し、歩行器を使用して歩行量を増やしていく手段も、最終的な目標達成には必要です。

その他の小脳の疾患

脳血管疾患の区分からは、逸脱しますが、小脳部位の障害は、疾患として他にも存在します。機能としては、小脳が障害されることで、起こりうる障害の特徴は共通点がありますが、リハビリの方向性や、アプローチ方法はまた変わってきます。
小脳障害が起こる代表的な疾患として、脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration :SCD)、多系統萎縮症(Multiple system atrophy: MSA)、フリードライヒ失調症(Friedreich’s Ataxia: FA)、多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)があります。
どの疾患も難病指定されており、小脳の機能を多く障害される疾患です。代表的な脊髄小脳変性症(以下SCD)は、推定で日本に約3万以上いると言われており、10万人あたり10~20人の割合でいます3)。SCDは、遺伝性は30~40%、孤発性(遺伝ではない)は60~70%と、家族の中で遺伝的に発症することは、突然の発症と比較し少ないです。家族歴を確認し、遺伝性か孤発性によるものかで、医師による治療方針は大きく変わってきますし、リハビリの方向性としても、アプローチが変わってきます。
遺伝性SCDは、疾患の判別が可能で、SCDの中でも分類として、純粋SCD型と多系統障害型があり、発症時期や症状、予後も異なってきます。共通して言える特徴としては、歩行でフラつく、呂律が回らない、書字が乱れるといった症状が見られます。他には、小脳に2次的障害を与える疾患として、腫瘍や外傷、脳血管疾患、感染症、代謝障害があげられます。

リハビリベース国分寺のアプローチ

今回は、小脳の働きから後遺症、またリハビリ内容に関して話させてもらいましたが、
リハビリベース国分寺での特徴的な取り組みに関しても、述べていきます。小脳の後遺症
をお持ちの方も様々で、車椅子から立つのに介助が必要な方もいれば、室内は伝いで歩く
ことができるが、外はこわくて歩行器が必要など、行える動作や活動範囲は異なります。
異なる後遺症の度合いの中でも、リハビリを共通して行うことは、起き上がりや立ち上が
りなど、基礎的な動作の中で、協調的に運動が正しい動作で行われているかを、初めは重
点的に行っていきます。どんな難易度の動作も、基礎的な動作から誤った動作が学習され
ると、応用的な場面でバランスが上手く取れない、次への動作に移行しづらくなる場合が
あります。ある程度、協調的なバランスが取れるようになると、次は視覚情報を少しずつ
減らしながらのバランス訓練を行っていきます。始めは、バランスをとるのに精一杯で、
足元を注視する傾向ですが、屋外での活動には、周りを見渡しながら歩くといった応用的
な動作も必要なため、視覚情報を減らしたバランス訓練も重点的に行っていきます。リハ
ビリ動作の難易度調整を細かく行っていくことで、段階的に目標に近づいていきます。通
われているリハビリ時間以外にも、自宅生活にて可能な限り活動量をとってもらいます。
ご家族の手が不足していれば、他サービスとの連携も図りながら、リハビリで得た身体機
能を、活動へ出来るだけ多く活かす取り組みをしていきます。日に日にリハビリ効果が出
て、できる活動が増えることも、本人にとって強い励みと、リハビリの大きな原動力にな
ってきます。
リハビリベース国分寺で通われている、脳血管疾患の方々は、麻痺による障害も様々で
、発症してからリハビリを受ける時期も様々です。発症後から、急性期病院にて全身状態
が安定した後に、リハビリ目的で回復期病院へ入院する方もいれば、自宅生活を選択し、
リハビリを通って受けられる方もいます。リハビリベース国分寺の一番の特徴として、ど
の時期においてもリハビリが受けられます。また回復期から維持期まで、リハビリにより

効果を出すことができます。脳血管リハビリテーション①でも述べたように、回復期を脱
した維持期、脳梗塞を発症した6ヶ月以降、1年、5年、10年経過した方でも、適切なリハ
ビリをすることで、身体機能と動作を改善できる部分があります。通って頂いているご利
用者の中には、回復期を終えた後も、もう少し集中的にリハビリを続けたい、身体を改善
させたいという強い気持ちを持たれている方が多いです。また、脳梗塞後、5年、10年と
経過し、最近上手く歩けなくなってきた、麻痺の緊張が高く出来ないことが増えた、とい
う方も短期集中にて、改善を図ることで、元の生活、またはより希望に沿った生活を獲得
される方がいます。ですが、麻痺の状態により、全てを改善されることは難しいです。リ
ハビリベース国分寺では、リハビリを開始する前に、体験を設けており、理学療法士によ
る客観的な評価を行っていきます。そしてご利用者や、ご家族の今後の希望と照らし合わ
せ、具体的なリハビリが必要なところ、または目標に対しての到達できる地点を、客観的
にお伝えし、ご納得頂いてから本契約頂いています。100%、身体機能が改善することは難しいですが、初回体
験にて改善できる部分、リハビリによって到達できる予後を、具体的な期間を持って、説
明させてもらいます。脳血管疾患の具体的なリハビリの過程は、リハビリ事例として挙げ
ているので、ご参照下さい。(50代脳梗塞後遺症)

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。

リハビリベース国分寺
1年間の実績

実績報告(1年間)

問い合わせ・資料請求は大変多くの地域からご連絡をいただきました。
また、近隣の病院のSMWさんやケアマネジャーさんなどホームページや患者様やご家族様が自ら探されて問い合わせが多くありました。
主に電車や車などを使いいただき、30分圏内の方がほとんどですが、遠方からも来てくださっています。

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60代女性 変形性股関節症による慢性疼痛・歩行障害 ~また外で歩けるようになりたい!!~

60代女性 変形性股関節症による慢性疼痛・歩行障害
~また外で歩けるようになりたい!!~

今回のブログでは当施設にお越しいただいていた、60代女性の変形性股関節症による慢性疼痛で歩行障害などを呈した事例についてご紹介していきます。

 
【目次】

●事例紹介
●初回体験リハビリ時の状況
●リハビリ内容
●リハビリ結果

 
【事例紹介】

約5年前、犬の散歩中に右股関節痛を発症。以降、徐々に右股関節の痛みが強くなっていき、歩く際に足を引きずるようになってしまいました。痛みが強くなってから、両手に支えがないと歩けない状態にまで悪化し、屋内だけでの生活が中心となり外出はほとんどしなくなりました。発症前は1日7000歩程歩き、畑仕事をしていてとてもアクティブに生活されていたそうです。
そんな中、このように右股関節を痛めてしまい、今まで行えていた生活が出来なくなったことにすごく落ち込んでいました。また、長時間座れないことで病院受診も出来ず、すごく悩まれていたそうです。
発症から約5年、リハビリベース国分寺を介護職員から紹介され、『また外を歩けるようになりたい!!』という目標に向かってリハビリ開始となりました。
年代
60代 女性
疾患名
変形性股関節症(右股関節)
発症からの期間
約5年
主症状
右股関節痛による日常生活動作障害(主に歩行)
通所期間
6カ月間(週1回ペース)
リハビリ目標
また外を歩けるようになりたい
ご契約プラン
24回プラン

 
【初回体験リハビリ時の状況】

・自宅前からタクシーに乗り、なんとか当施設へ来所。
・右股関節全体の痛み、可動域制限が著明で筋力低下もみられる。
・自分の力で足を持ち上げられない。
・寝返り動作や立ち上がり動作でも右股関節の痛みがみられる。
・座っていられない。
・歩行時は屋内屋外ともにシルバーカーとT字杖を使用し跛行がみられる。

◎これらの問題を解決するために理学療法士による身体評価を行い、ご利用者様のニーズに合ったオーダーメイドのリハビリプランを組みました。

 
【リハビリ内容】

リハビリ内容としてはこの5つを中心として介入しました。
➀股関節の痛みの改善
➁股関節の可動域改善
➂体幹・股関節周囲の筋力強化
➃バランス機能向上
➄日常生活動作の獲得

まずは股関節の痛みの改善と可動域確保を中心にリハビリを行いました。股関節の痛みや可動域制限となっている原因を見つけ出し、それに対して徒手的な介入やストレッチ、エクササイズを行いました。さらに脊柱や肩甲帯の柔軟性を獲得することで股関節への負荷を軽減できるため、並行して脊柱・肩甲帯のストレッチやエクササイズも欠かさず行っていただきました。
一回の施術で痛みや可動域が完全に改善することは難しく、リハビリ効果の確認と再評価を繰り返し、より確実に身体機能の向上に繋げられるように取り組みました。
また、股関節の可動域を確保しながら、股関節周囲はもちろん体幹や大腿部の筋力強化を図り、日常生活動作の修正に繋げられるようなメニューを組みました。
歩行や方向転換、洗濯物を干す・取り込むなどの動作にはバランス機能も必須となってきますので様々なシチュエーションを想定しながらバランストレーニングも取り入れました。
日常生活動作練習は、寝返り練習、座位姿勢からの立ち上がり練習、歩行練習を中心に介入し、身体機能評価から、動作の妨げになっている原因を探ることとご本人の目標に対して、解決すべき課題を見つけ出していきます。
課題といっても痛みや筋力低下などの身体機能面のみならず、動作に対しての恐怖心や不安などの精神面での影響も少なくありません。こういった点からも、リハビリの効果確認や身体機能の再評価などはとても重要で、その都度ご本人とコミュニケーションを取りながら、「現状どの程度まで出来ていて、この先何が必要か」「どんなことをしていきたいのか」など、細かく確認しながらより良いリハビリを提供していきました。
動作獲得のためには身体機能の改善のためのアプローチを行いながらも、動作練習も組み込み、段階的にステップアップできるように提示していきました。
まずは屋内での歩行の安定の獲得から屋外歩行へ繋げていく、商業施設内や駅周辺の人混みの多い場所の歩行練習など、様々なシチュエーションの中で繰り返し練習していき、動作獲得へ一歩ずつ進んでいきました。
リハビリを行っている過程で、ご家族様から「お母さん、普通に座っていられるようになったね」といわれたと、ご本人様が大変喜ばれており、さらにリハビリへの意欲が高まったとお話されていました。

 
【リハビリ結果】

今回は、当施設に通っていただいている右変形性股関節症による慢性疼痛の悩みを抱えている方のリハビリについてご紹介させていただきました。
股関節の可動域や筋力は大幅に改善し、痛みに関しては少し気になる程度にまで改善し、リハビリ開始時には、寝た状態でご自身の力で右足を上げることが出来ませんでしたが、自分の力で上げられるようになりました。さらに、寝返りや、立ち上がり動作時の痛みはほとんどなくなり、動作の遂行もスムーズに行えています。
歩行に関しては、屋内ではT字杖のみの使用、屋外ではシルバーカーとT字杖を使用していますが恐怖心や不安なく行えるようになり、以前より外出頻度は明らかに多くなったとおっしゃっていました。スーパーへの買い物、ご主人の洋服を買いにUNIQLOにまで行けるようになりました。
患部の痛みや可動域、筋力が改善したことにより動作能力が上がったことや、繰り返しリハビリ・練習を行うこと、自主リハビリを積極的に行っていただいたことで一人で外出が出来るようにまで改善しました。
リハビリベース国分寺では身体機能改善のためのリハビリはもちろんですが、外出サポートや自主リハビリの提示・確認、ご家族様とのコミュニケーション、他施設との情報共有などと幅広くサポートさせていただいています。
同じようなお悩みを抱えている方、ぜひ『リハビリベース国分寺』へお越しください!!

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『50代男性 脳出血後、復職への道のり』

『50代男性 脳出血後、復職への道のり』

今回は、当施設に通って頂いている、50代男性のリハビリ過程を紹介させて頂きます。当方は、2年前に右被殻出血をおこし、左片麻痺を呈した方です。脳梗塞後、2年経過し、歩行は行うことができますが、屋外ではバランス機能や体力の低下から、奥様の見守りにて、200~300mの距離がやっとの状態でした。ご希望としては、屋外での歩行自立と、公共交通機関を利用した通勤動作の獲得、復職が挙げられました。

リハビリの流れとしては、以下の過程に沿って進めました。

1. 初期評価

2. 本人やご家族と課題の共有

3. オーダーメイドのリハビリプログラムの作成

4. リハビリ計画に基づく、プログラムの実施

5. 日常生活での目標達成度合いの確認


1.初期評価
 麻痺の後遺症や、高次脳機能障害に対し、検査や評価バッテリーを使用し、客観的な数値を挙げていきます。麻痺の状態を評価する検査としては、ブルンストローム・ステージ、FMA(ヒューゲルマイヤー)等を用いて、初期から経過を点数として追っていきます。その他にも、麻痺の痙性による筋緊張に対し、MASや可動域角度を測定します。動作は、寝返りから、座った姿勢、立ち上がりから歩行まで、客観的に動作観察を行っていきます。実際に動画や、動作解析アプリを通して、本人が感じていることと、実際に生じている現象の差異をここで共有していきます。また本人の訴えや、ご家族からの困りごとを拾うことも、初期評価の一つになります。それらの初期評価は、リハビリ経過の中で、麻痺の状態や動作改善を、客観的に評価していく材料となります。
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歩行分析、装具のチェック
脳梗塞後遺症の方で、装具が必要な方は、歩行分析から装具の確認を行っていきます。装具が効果的に働いているか、麻痺の後遺症による歩行パターンと照らし合わせ評価していきます。今回の方は、左脚に反張膝がみられ、金属支柱の足継手の角度が足りなかったため、角度調整を初めに行い、次に体幹から股関節、膝は運動療法にて歩容修正を図りました。
2. 本人やご家族と課題の共有
 身体機能の評価から、麻痺による感覚や筋力低下、バランス機能低下の原因を探ることと、本人の目指すべき動作に対して、解決すべき課題を提示していきます。課題というのも、身体機能のみならず、動作が行えない恐怖心や不安など、メンタル面での障壁も少なくありません。初期評価から課題共有の段階では、本人の不安な部分から、目指すべき目標まで、深くコミュニケーションをとり、共有していくことを大切にしています。評価やこれから解決すべき内容を、本人やご家族と照らし合わせることで、目標までの道のりをより効果的に進めていくことが可能となります。
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3. オーダーメイドのリハビリプログラムの作成
 初期評価から、課題を抽出、そして共有した後は、課題を克服していくためのリハビリプログラムを個別で作成していきます。リハビリプログラムの中には、期間や段階的な難易度調整が設けられており、それは担当セラピストと予後予測や、課題克服に要する期間が考慮された上で、立案しています。整形外科や、神経筋疾患、脳梗塞まで症状は非常に様々なため、通例はなく、大きく問題点となっている部分に対して、アプローチを行っていきます。リハビリのプログラムには、当施設でのリハビリ以外に、自主的に行って頂く自主的なトレーニングの効果も加味されています。人により難易度や頻度は異なりますが、可能な部分を最大限に引き出していきます。
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4. プログラムの実施
 初めは大きな課題となっている問題点に対し、動作修正と運動学習を図ることで、身体の基礎をしっかりと築いていきます。今回のケースでは、麻痺側の感覚低下から、反張膝の歩行パターンが根強くありました。寝た姿勢でのストレッチングや、麻痺の痙性に対しての促通を行い、起き上がりから、立ち上がり、歩行へと動作をつなげていきました。どの動作においても、誤った動作パターンが共通してみられるため、初期の段階にて念入りに、動作の修正を行っていきます。逆に、立ち上がり一つにおいても、正しい動作パターンが得られることで、立位や歩行に次いでも、正しい筋活動のパターンが得られてきます。より効果的なプログラムの実施にも、大きな問題点となっている誤った動作パターンの修正と、正しい筋活動に導くことで、立案したリハビリプログラムを円滑に進めていくことが可能となります。
身体の基礎が固まってきた段階で、目標達成に向けての実際の活動を徐々に行っていきます。今回は、通勤に必要な歩行スピード、距離、バランスが挙げられました。正しい歩行パターンに修正することで、歩行の推進力が上がり、歩行スピードと歩行距離の延長が図れてきます。実際に、時間を計測しての屋外歩行や、駅構内の移動、電車の乗降などを確認していきます。行っていくうちに、また新たな問題点や課題が見えてくることも多々あります。その都度、修正と本人への注意喚起を促すことで、目標達成に向けての成功体験を積み重ねていきます。
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5. 日常生活での目標達成度合いの確認
 リハビリにて、身体機能の向上と、動作改善を図りますが、実際にそれらの獲得した動作が、日常生活で行えているかを確認していきます。リハビリプログラムを実施していく経過でも、随時、進捗状況は追っていきます。実際に行ってみて、「この動作がやっぱりうまく行かない」、「ちょっとした段差を跨ぐのがこわい」といった新たな問題点に対して、再度評価を重ねながら動作獲得を図っていきます。初期評価から、目標達成までの過程は、必ずしも予定していた通りとはいきません。中には、途中で体調の悪化や、リハビリが来られずに筋力がまた落ちてしまったというハプニングもあるかもしれません。急なアクシデントなど、想定外のことがあるからこそ、初めに立案したリハビリプログラムにその都度立ち返り、目標の再確認や軌道修正を行っていきます。リハビリの過程や、終わった後でも、常に評価と修正は行っていきます。
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リハビリベース国分寺の取り組み
 今回は、当施設に通って頂き脳出血後のリハビリに、励まれている方を挙げさせて頂きました。リハビリ当初は、不安が強く、屋外歩行に対しても恐怖心を強く持たれていました。一つずつ、課題をこなしていく中で、屋外歩行での自信も付き、活動範囲も少しずつ増えていきました。当初の状態から、目標達成までの幅は物凄く大きい状態でしたが、少しずつ目標へ近づいて来られたのも、ご本人の諦めない気持ちや、挑戦し続ける力強さがあったことで、実現できたことだと感じます。身体機能に対して、的確な評価からリハビリを行い、着実な改善を見出していく。それに加えて、本人やご家族の方とも密にコミュニケーションを取ることで、課題への取り組み方や、目標への方向性を共有していくとは、リハビリベース国分寺の強みとして掲げています。今回、脳血管疾患においてのリハビリとして、目標に向かって励まれた当方に、大きな拍手を送ります。

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。

廃用症候群による消化器系・泌尿器系・皮膚への影響

廃用症候群による消化器系・泌尿器系・皮膚への影響

今回のブログでは廃用症候群による消化器や泌尿器、皮膚への影響についてまとめています。
これらの器官への影響は廃用症候群をさらに悪化させる要因となってしまうので注意が必要です。
是非、最後までご覧ください。

 
【目次】

●廃用症候群による消化器系への影響
●廃用症候群による泌尿器系への影響
●廃用症候群による皮膚への影響
●まとめ

 
【廃用症候群による消化器系への影響】

廃用症候群による消化器への影響は主に食欲の低下や体重の減少、便秘、栄養状態の悪化、逆流性食道炎などがあげられます。
これらは不動による交感神経系亢進の結果、腸管蠕動運動が低下し、括約筋収縮の増大による栄養吸収率低下から、体重減少や便秘などの症状を生じます。また、臥床姿勢による食物の通過時間延長が食欲低下や食事量減少に影響すると、低栄養状態になり筋萎縮、骨萎縮を助長することになってしまいます。
廃用症候群による便秘の多くは、大腸の動きが弱くなるためです。腸は、副交感神経が働く(=リラックスしている状態の時)ことで動きが活発になります。しかし、上記した通り廃用症候群では交感神経系の亢進により副交感神経は働きが低下するので、腸は不活発になり便秘になりやすくなります。
廃用症候群では日常生活の活動量低下とともに筋力も低下します。特に排便には腹筋が関与しており、腹筋と腸の動きは連動しているため筋力の低下で腸の動きも衰えます。これにより、腸の中の便が停滞してしまうのです。
腸内に停滞している便は、水分が減っていきます。スムーズに排便するためには、十分な水分量が必要ですが廃用性症候群により水分摂取量の減少、食事量の減少が腸の刺激を弱めることで便の水分量が失われやすい状態になり、排便が困難になります。便が長く腸に停滞した状態であると、腸のバリア機能の低下やお腹が張り、食欲低下により炎症や感染症、栄養不足をきたすリスクが高くなります。また、腸が動かないことで消化不良を起こすなど身体的な影響とともに、イライラや便秘が悩みになるなど精神的な苦痛も出てきます。
このような精神的な苦痛や、座った姿勢を保持する体力的な辛さから食事への意欲を失い、食欲低下と悪循環を招いているケースもあります。
満足に食事できなくなると、全身の栄養状態が悪化するため、風邪をひきやすく、誤嚥性肺炎や褥瘡の原因にもなります。無理のない姿勢で楽しい雰囲気の中で食事ができるよう環境を整えることも予防のひとつになります。
廃用症候群による消化器系への影響の中でも代表的なのが、胃酸が食道まで逆流する逆流性食道炎です。
本来であれば、胃の入り口は筋肉の力で締まっているので、胃の中にある胃酸は食道に逆流してくることはありませんが、廃用症候群になると、胃の入り口の筋肉の力も低下してしまうため、逆流性食道炎が起こりやすくなってしまいます。
逆流性食道炎があると胸やけの原因にもなり、ますます食欲の低下や栄養状態への悪化につながります。
逆流性食道炎は薬での治療ができるので、胸やけの症状がある場合には、悪循環を招く前に早急に対応することが望ましいです。

 
【廃用症候群による非尿器系への影響】

廃用症候群になると、不動による骨量の減少と骨吸収の亢進により高カルシウム血症,高カルシウム尿症が生じ、尿路結石が生じやすくなります。
長期間寝たきりになった場合など、尿道に管を入れる尿道留置カテーテルが挿入されることがありますが、留置カテーテルの挿入は、さらに尿路結石のリスクを高めます。
また、全身の栄養状態に伴い、免疫が低下することによって、尿路感染症も起きやすくなり、発熱の原因となり、さらに膀胱結石があると膀胱粘膜を損傷し、細菌の繁殖により尿路感染のリスクが高くなります。
尿路感染症とは細菌が尿路の出口から侵入し、尿道、膀胱、尿管、腎臓など尿の通り道に細菌が住み着き、増殖して炎症が起きる感染症です。
感染する場所によって、尿道炎、膀胱炎、腎盂腎炎に分けられます。
尿道炎
尿をするときに痛みを感じ、膿(うみ)がでます。
膀胱炎
尿をするときに尿道や膀胱に痛みを感じる(排尿痛)、尿をした後も尿が膀胱に残っている感じがする(残尿感)、トイレが近い(頻尿)、尿が濁るといった症状があります。
発熱はありませんが炎症が非常に強い場合には、尿に血が混じることもあります。
腎盂腎炎
背中の痛み、発熱、悪寒、吐き気・嘔吐などがあります。炎症が強いと尿に血が混じることもあります。
尿路結石も尿路感染症も排尿時に痛みや血尿を伴うものなので、日頃から痛みの訴えがないか、尿の色が変化していないかを確認しておくことが大切です。
尿路結石や尿路感染症の予防には水分の摂取が効果的です。
廃用性症候群より、水分摂取量が減少していなかきちんと把握すること、定期的に水分の摂取を促し、手が届く位置に水分を置いておくなど、予防することが重要です。

 
【廃用症候群による皮膚への影響】

廃用症候群による影響で、さらに注意したいのが「褥瘡(床ずれ)」です。
褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に「床ずれ」ともいわれ、背骨の棘突起や仙骨、大転子、腓骨頭、かかとに多く、在宅介護の場合では後頭部にできてしまうケースもあります。
本来、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうち、長時間椅子に座っているときはお尻を浮かせるなどして、同じ部位に長い時間の圧迫が加わらないよう「体位変換」を行っています。しかし、こういった体位変換できない場合は、体重で長い時間圧迫された皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなり「褥瘡」ができてしまいます。また皮膚の表面だけでなく、皮膚の中にある骨に近い組織が傷ついている場合もあり、最悪の場合「壊死」してしまいます。褥瘡を作らないためにも、クッションなどで除圧する、体位変換を促す・介助することが必要になってきます。
自分で体位変換ができず長期間寝たきりで、栄養状態が悪かったり皮膚が弱くなっていたりする場合、圧迫だけでなく摩擦やずれなどの刺激が繰り返されている場合は褥瘡になりやすいといえます。

 
【まとめ】

今回のブログでは廃用症候群による消化器系・泌尿器系・皮膚への影響についてご説明させていただきました。
これらの器官への影響は、リハビリを行う上でも大きな阻害因子になってしまいます。
特に食事や水分が十分に取れないことで低栄養となり、身体機能改善や向上のための筋力強化に必要なエネルギーが作られないことや感染症による痛み等の症状で動くことが困難になることでさらに廃用を進めてしまいます。
このように廃用症候群は様々な器官や組織への影響が多く、治療が難渋するケースも少なくありません。
何度も言いますが、廃用症候群はやはり予防が重要となってきます!!!

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脳血管リハビリテーション③ (バランス編)

脳血管リハビリテーション③ (バランス編)

人のバランスってどうやってとられるの?

 日頃の生活の中でも、人はあらゆる感覚や周囲の情報を統合して、バランスがとられています。
朝、ベッドから起きて、足を床に付け、立ち上がる。立ち上がった後、向かう方向を見て歩いて移動する。
何気ない日々の動作は、視覚、皮膚の感覚、関節の位置覚、バランス感覚等、身体の感覚を統合して行われています。
日頃の生活の中で、バランスを崩しそうになった場面はありませんか?
真っ暗な中で歩く。でこぼこした道を歩く。混雑した駅構内、向かってくる人を避けながら進む。周りの人の流れをみながら歩く。日常生活の中で、転ばなくても、よろけてしまう時が、誰しも経験の中であると思います。
転ばずにバランスを保つことができるのは、眼からの情報(視覚情報)、身体から感じる情報(体性感覚)が統合して行える一連の動作になります。
今回の脳血管リハビリテーションシリーズでは、バランスがとられているメカニズムを説明していきます。
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体性感覚

脳血管リハビリテーション②で、述べた感覚の話を少し掘り下げてみます。
人は、身体を動かすとき、脳から指令を送り、自分の意思で身体を動かしています(随意運動)。物を掴む動作を例に挙げると、物の形状を確認し、持ち方や挙げ方を無意識下に考え、動作を実行しています。
次に、物を持ち続ける動作として、手で把持をしながら落とさないようにする、または手の平でバランスを取る。これは、手の皮膚に触れる感覚や、それぞれの関節の位置情報を得て、手のコントロールをしています。
この視覚情報と、手の感覚は、どちらも必要な情報です。仮に目をつむりながら、物を持とうとする時、人は、対象物がどんな物なのか、情報がないまま物に触れることに、恐怖心が生じてしまいます。
手探りで対象物の質感や、形状、大きさや重さを理解し、初めて、対象物の持ち方を頭で構想することが出来ます。
目をつむった状態で、手のひらに置いたボールを落とさないようにすると、すごく難しい作業になってしまいます。
人は無意識のうちに、動作一つの中で、視覚から得た情報や感覚を統合した上で、効率的に動作が行われています。
体性感覚は、下の図1の大きく分けて三つに分類されます。
 初めに、物に触れた時に表面の滑らかさ、粗さを感じることができる、皮膚の表在感覚が一つ挙げられます。この表在感覚は、温度や痛みを感じる情報(温痛覚)も含まれています。
 次に、物を持つときの指や手首の位置は、位置覚と言われ、深部感覚に属します。深部感覚には、位置覚の他に、運動の方向を認知する運動覚、振動を感じる振動覚が含まれます。
 最後に、皮膚に2点同時に触れて認識する感覚(二点識別覚)、皮膚上に書字された文字を認識する(皮膚書字覚)を複合感覚と呼びます。この表在感覚、深部感覚、複合感覚の総称を体性感覚と呼びます1)。
図1: 体性感覚の分類

視覚とバランス

感覚の分類をもっと広げてみると、体性感覚の他に、5つの感覚(嗅覚、視覚、味覚、聴覚、前庭覚)を総称し、特殊感覚が挙げられます。
今回は、バランスに関与する、視覚、前庭覚を挙げ、バランスが保たれる機序をみていきます。
よく聞く話として、平衡感覚は耳にある耳石や三半規管によって感じられ、時に目眩などの原因になることを聞いたことはありませんか。
前庭感覚は、感覚受容器として、三半規管と前庭(耳石)器から構成されます。三半規管では、前後左右と水平回転の三つ、耳石器は、速度などを認識することが出来ます。前庭感覚は、身体の平衡調整に関する姿勢反射や、眼球運動の働きと密接に関係しています2)。
視覚、耳の前庭覚は、バランスを保つことにおいて、非常に関係性が強いです。それぞれの情報が、脳で集約されることで、バランスがとられています(姿勢制御)。
例を出すと、平坦ではないでこぼこ道、暗闇の中を歩くといった動作は、日が出ている明るい時間帯で歩くのとでは、バランスの安定性が大きく違います。当たり前の話かもしれませんが、脳梗塞後遺症で、空間を上手く認識することが出来なかったり、眼球の運動障害から物が二重に見えたりするだけで、バランス保持の困難さに多大な影響を及ぼします。
 視覚は、色彩や光を網膜と言われる受容器で受け、見ている物は、水晶体と呼ばれるレンズの役割を通り、網膜状に映し出され認識します。暗い所から急に明るい所に行くと、瞳孔が縮む現象がみられるのは、眼球内で虹彩と言われる小さい筋肉が閉じ、光が入る量を反射的に調節して起こる現象です。
 眼球の運動は、上下左右、斜めと全部で8方向の動きが、眼球に付いている外眼筋によって動かされています。外眼筋の神経支配は一つでなく、動眼神経、外転神経、滑車神経の三つの神経によって支配されています。
 脳梗塞後の後遺症として、右は向けるが左が向きづらい、下を注視しやすく上側がみにくい、片側だけ眼球が滑らかに動かないといった症状がみられます。眼球運動の動きの確認は、大事な評価の一つで、制限されている動きに対し、障害された経路を追うことや、苦手な方向に眼球運動を促すといったリハビリを行います。視覚の情報は、バランスを保つために多くの割合を占める情報の一つのため、眼球運動や、視覚的なアプローチを行うことは、バランスを獲得するために非常に大切なプロセスです。
姿勢制御の発展的な内容として、前庭系の反射制御があります。
4つの代表的な反射が挙げられますが、頭の動きから目の動きが無意識のうちに動く、前庭覚で受けたバランス感覚から、反射的に首や体幹の筋肉に直接働きかけるような、姿勢制御の機序があります。特に、頸部は視覚からバランスとの関わりが強く、逆に頸部の緊張から眼球運動が妨げる、頸部の過度の緊張から、上手に姿勢制御が行えないといったこともみられます2)。
小脳の後遺症や、体幹が上手く働かないといった体幹失調がある場合、背中の粗大な筋肉や、首の後ろの筋肉が過度に緊張している場合が多いです。

感覚の神経経路

上記に述べた様々な感覚は、脳血管リハビリテーション②の挙げた、脳の大きな分類の中で、頭頂葉の中心後回にある、感覚野に統合されます。
その感覚の経路としては、脳に到達する3次ニューロン脊髄を通る2次ニューロン、それぞれの関節や皮膚に繋がる1次ニューロンの三つの経路に分かれます。
神経路が通る脊髄の中でも、表在感覚(触覚、温痛覚)、深部感覚は、脊髄内で位置している部分が異なり、1次ニューロンの皮膚から得た情報は、2次ニューロンに属する脳幹で交差し、3次ニューロンに到達します。
右側の脳で脳梗塞が起こると、左側の麻痺の症状が出るといった、梗塞とは反対側で症状が起こる機序は、この2次ニューロンにて反対側へ交差することで生じる現象です。脳血管リハビリテーション②では、大脳の分類に関して大まかに述べましたが、今回は、2次ニューロンを担う、脳幹に関して説明します。
脳幹は、大脳の下に位置し、上から中脳、橋、延髄に分かれます。また脳幹の後ろに小脳が存在します。
脳から脳幹、そして脊髄へと経路は繋がります。(小脳の働き、脳幹から大脳の視床への経路は、また続編で述べていきます。)
初めに中脳は、覚醒に関与する脳幹網様体、体性感覚の伝導路であり内側毛帯、温痛覚を担う脊髄視床路、眼球の運動に繋がる動眼神経、滑車神経があります。橋では、同じく網様体、内側毛帯、脊髄視床路は、加えて顔面の感覚を担う三叉神経、表情筋を支配する顔面神経があります。先程述べた、バランスを司る前庭感覚も内耳神経を通して橋に繋がります。
一番下に位置する延髄は、中脳から同様な経路が存在しますが、舌の運動を担う舌下神経、咽頭の感覚や味覚を支配する舌咽神経、運動学習に関与するオリーブ核が代表的な神経路として挙げられます。
延髄は特に、小脳と連絡をとり、姿勢制御の中で筋緊張をコントロールしています。姿勢やバランスを保つメカニズムは、脳幹にて前庭覚や視覚情報、小脳と密接に関与しながら、姿勢制御を担っているこがよく分かります。バランスと言っても、一筋縄に片つけることは出来ず、他にも3次ニューロンの大脳系にて、感覚や情報が統合された結果、姿勢が保たれています3)。

脳梗塞後遺症、バランスのアプローチ

今回は、バランスに関して、視覚から前庭覚の統合と働き、脳から脊髄を通り皮膚や関節までの経路を大まかに述べてきました。隅々までバランスに関与する感覚や経路を追うと、膨大な情報量となり、全てを述べることは出来ませんが、代表的な姿勢制御に必要な働きを挙げさせてもらいました。
脳梗塞後の後遺症で、バランスが上手に取ることが出来ないと言った症状は、梗塞部位や出血量によって様々です。また後遺症を差し引いて残存している身体機能から、目標とする動作の難易度により、具体的に獲得すべき動作やリハビリの内容は様々です。
ベッドから1人で起きられるようになりたい。″〝ベッドから車椅子へ1人で移れるようになりたい。″〝自宅内、手すりや杖を使ってもいいから歩けるようになりたい。″〝屋外にて、1人で歩けるようになりたい。″
上記のADL動作は、全ての動作に共通してバランス機能が必要となり、難易度は段階的に増していきます。
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リハビリベース国分寺では、現在の身体機能から目標である動作獲得まで、どのようなプロセスを踏んで、どのくらいの期間、リハビリが必要かどうか、客観的に評価させて頂きます。
特にバランスの獲得に至っては、今回の脳血管リハビリテーション③で述べた、感覚に対して、本人と対話を重ね、動作一つひとつを獲得していくことで、エラーが起こっている動作に対し運動学習の効果を高めていきます。
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今回は視覚と前庭覚による、姿勢制御の機序を述べましたが、実際のリハビリの場面では、様々な刺激を、感覚として与えていきます。深部感覚の、関節の位置覚の話があったように、動作の基本的なポイントを随時修正していくことや、麻痺により皮膚の表在感覚が鈍くなってしまっている部分に対し、感覚を入れることで、付随して動く筋に対しアプローチを行っていきます。
例を挙げると、起立動作は、歩行を行う前の立った姿勢を作る上でも非常に大切な動作です。麻痺があると、片側に重心に乗りづらく、筋力低下や、起立後の立った姿勢にて、バランスを上手くとることが出来ないといった症状が生まれます。
麻痺の部分に対して、裸足で床からの表在感覚を入れる、膝と股関節、または骨盤から体幹の動きを誘導していきます。限りなく正しい動作に近づけていくことで、麻痺のある部分に対し、筋力をつける、踏ん張ることができる脚をつくる、感覚を認識し自分1人でバランスを保つことができるまで、入念に繰り返し行っていきます。
感覚から、動作獲得までにも、脚の位置を自分の眼で確認できているか、目をつむるや脚を閉じる等、難しい姿勢でもバランスを保つことができるか、視覚や前庭覚に対し、随時刺激を与えていきます。更に、屋外での凸凹道、人混みでの歩きは、高次脳の克服シリーズで述べたように、注意機能と視覚を上手く使い、歩行が円滑に行えているか、評価と練習を積み重ねていきます。

【参考文献】

1)後藤淳.(2005).中枢神経系の解剖学. 関西理学5:11-21,2005.
2)Treleaven, J. (2008). Sensorimotor disturbance in neck disorders affecting postural stability, head, and eye movement control. Manual Therapy 13(2008)2-11.
3)浅井友詞.(2013). 脳における平衡機能の統合メカニズム. 理学療法第40巻第8号.

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。

廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群は関節拘縮、筋萎縮(筋力低下)、骨萎縮(骨粗鬆症)など運動器系の変化のみでなく、起立性低血圧、深部静脈血栓症、消化管運動の低下、認知機能低下など循環器や消化器、精神機能など多岐にわたる器官の機能低下が生じます。
今回のブログでは廃用症候群により循環器系や消化器系へどのような症状が出てしまうのかまとめています。

 
【目次】

●循環器系への影響
  ➀運動耐容能低下
  ➁起立性低血圧
  ➂静脈血栓
●呼吸器系への影響
  ➀換気障害
  ➁誤嚥性肺炎
●まとめ

 
【循環器系への影響】

長期に渡る安静臥床により、心機能、循環器機能に様々な廃用症候群が発生します。
低運動が続くことで、心臓のポンプ機能が低下し一回心拍出量が減少します。拍出量が減少することで安静時や運動時心拍数の増加、循環血液量の減少に伴い、全身の血液循環が悪くなってしまいます。このようなことから血管運動調節機能(血圧調節)の低下や血液の粘性の増加、心機能の低下による運動困難などが発生します。
これらの症状を➀運動耐容能低下➁起立性低血圧③静脈血栓に分け、それぞれの症状を詳しくみていきましょう。
➀運動耐容能低下
運動耐容能とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。
循環機能として酸素運搬機能に不動が影響すると、全身持久力低下により、脱力感や易疲労性が生じます。
20 日間のベッドでの安静臥床により、健康な若年男性の最大心拍出量が 26%減少したという報告がされています。これは、心筋の萎縮による心機能変化と循環血液量の減少によるものと考えられます。
全身持久力は、最大酸素摂取量を測定することにより評価できます。臥床日数が長くなればなるほど最大酸素摂取量は減ってきます。最大酸素摂取量は心臓のポンプ機能と骨格筋の酸素利用能により決定されるので、廃用症候群によりの両者が低下したことで最大酸素摂取量が減少したと考えられます。ただし、トレーニングにより心機能や最大酸素摂取量が回復することが証明されており、さらに全身持久力の低い人は、トレーニングにより最大酸素摂取量を元の値よりさらに増加させることができることを報告しています。
➁起立性低血圧
臥位から急に立ち上がった際に、立ちくらみ、めまい、収縮期血圧の低下などを生じる起立性低血圧も廃用症候群による循環器への影響の代表的な症状です。立つことにより血液が下肢に貯留され、静脈還流量が減少し、心臓の拡張期容量が減少することで収縮期血圧が低下し、その結果、脳の血液循環が低下して、めまいなどを起こします。
また、不動や長期臥床で交感神経活動が障害されるため、下肢の血管収縮が不十分となり静脈還流量が減少することで1 回心拍出量の低下をもたらし脳血液量が低下します。高齢者や重症の患者さんは 2~3 日で出現することもあります。主な症状は顔面蒼白、発汗、めまい、軽い頭痛などで、ひどくなれば失神をきたすことになります。いったん破綻した交感神経系の機能を戻すにはかなりな訓練期間を要します。
要するに循環血液量低下と血管運動調節機能障害、心筋機能の低下が、起立性低血圧や眩暈や失神症状を引き起こしてしまうということになります。
➂静脈血栓
廃用症候群による循環器への影響の中でも非常に危険な症状が深部静脈血栓です。
不動による下肢筋群の筋収縮-弛緩ポンプ作用の減少が、血流の停滞、循環血漿量の減少による血液凝固能を亢進させて、静脈血栓が生じます。
循環血液量は安静臥床後 2 週間で血漿量の 8~12%、2~4 週間で 15~20%減少するといわれています。その結果、血液粘稠度は増加し静脈血栓の危険性が高まります。
つまり、血液がドロドロになってしまい、血栓と呼ばれる血の塊が出来てしまうということになります。
血栓は特にふくらはぎにあらわれやすく、むくみや痛みの原因にもなります。
また、血栓は血流にのって全身に運ばれ、血管を詰まらせることがあり、肺動脈を詰まらせる肺血栓塞栓症が代表的です。肺血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」という名称でも知られています。
肺血栓塞栓症になると、肺での酸素・血液の交換がうまく行われなくなり、症状を放置すると、呼吸不全や低血圧によって命を落とすこともあるため、深部静脈血栓の予防や早期発見と早期治療が必要です。

 
【呼吸器系への影響】

廃用症候群による呼吸器系への影響として挙げられるのは、息切れや誤嚥などです。
筋肉といえば腕や脚のイメージが強いですが、咽頭部や体内にも存在します。
たとえば呼吸をするときは、呼吸筋(横隔膜と肋間筋)が収縮しますが、呼吸筋が衰えると、肺の伸縮がうまくいかなくなったり、肺の中の空気を十分に出し入れできなくなったりする換気能力の低下により、軽い運動でも息切れしやすくなります。
また、咽頭部周囲の筋肉が衰えると食べ物や水などをうまく飲み込めずに気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなります。
飲み込んだものが気管支に入り、むせたり肺炎になったりすることも少なくありません。
誤嚥による肺炎は「誤嚥性肺炎」と呼ばれ、高齢者には命の危険のある疾患です。
これらの症状を➀換気障害、➁誤嚥性肺炎に分け詳しく解説していきます。
➀換気障害
長期に渡る安静臥床により呼吸運動も少なくなり、胸郭の可動性の低下、横隔膜や肋間筋の運動が制限され、筋力が低下します。
呼吸筋の筋力低下、胸郭の可動域制限は、一回換気量、分時換気量、肺活量、機能的残気量の低下を減少させ、その結果、拘束性換気障害が生じます。つまり肺活量の減少や1回換気量の減少です。また換気量が減少することと過剰拡散が生じるために換気血流比が不均一となり、動脈血酸素濃度も低下します。
さらに、換気量の減少と腹筋群の筋力低下などにより咳嗽力(がいそうりょく/咳をする力)も低下します。咳をする力が弱まることで誤嚥のリスクも増加し、その結果、肺炎や無気肺なども生じることがあります。
➁誤嚥性肺炎
物を飲み込む働きを嚥下機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。
背臥位の姿勢が続くと、重力によって細気管支のより低い部分に粘液が溜まり、気管支線毛の浄化機能が損傷され、細菌感染の基盤となってしまいます。このような場合では口腔内の清潔が十分に保たれていないこともあり、口腔内で肺炎の原因となる細菌がより多く増殖してしまいます。また、咳反射が弱くなり嚥下機能が低下し、その結果、口腔内の細菌が気管から肺へと吸引され、肺炎を発症します。
誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされます。
また、栄養状態が不良であることや免疫機能の低下なども発症に関与してきます。
発熱、咳、膿のような痰が肺炎の典型的な症状ですがこれらの症状がなく、なんとなく元気がない、食欲がない、のどがゴロゴロとなる、などの非特異的な症状のみがみられることが多いのが誤嚥性肺炎の特徴です。
治療としては抗菌薬を用いた薬物療法が基本ですが呼吸状態や全身状態が不良な場合は入院して治療を行います。同時に口腔ケアの徹底、嚥下指導も重要です。

 
【まとめ】

廃用症候群の中でも骨格筋の筋力低下や関節可動域制限についてよく注目されてしまいますが、深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎など命に直結してしまうような影響もたくさんあります。
第一に廃用症候群を引き起こさないことが重要なポイントになりますが、一旦発症してしまうと、その回復は特に高齢の場合、困難になってしまうケースがあります。できるだけ予防に努めることが大切です。
骨格筋や関節可動域に関してもそうですが、循環器や呼吸器への影響を最小限にするためにはリハビリが必要です。身体を動かすリハビリはもちろん、嚥下機能や呼吸に関する筋へのリハビリ、栄養管理、口腔ケアを行い、予防に努めましょう。

 
【参考文献】

1)一般社団法人 日本呼吸器学会
2)伊藤良介.廃用症候群.日本義肢装具学会誌Vol.14 No.1.1998
3)長尾光修.Ⅰ.診断と病態 9.運動耐容能.日本内科学会雑誌 第90巻 第5号.2001
4)佐藤知香ら.安静臥床が及ぼす全身の影響と離床や運動負荷の効果について.Jpn J Rehabil Med vol.56 no.11.2019
5)園田茂.不動・廃用症候群.Jpn J Rehabil Med vol.52 no.4/5.2015

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廃用性筋萎縮ってなに?

廃用性筋萎縮ってなに?

筋肉や神経に障害がなくても、筋肉を使用しなければ「萎縮」といって筋肉が痩せてきてしまいます。これを「廃用性筋萎縮」といいます。
今回のブログでは廃用性筋萎縮がどのようにして起きてしまうのか、どう対処するのかをまとめています。

 
【目次】

●廃用性筋萎縮とは
●廃用性筋萎縮の発生メカニズム
●廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?
●まとめ

 
【廃用性筋萎縮とは】

廃用性筋萎縮とは、ギプス固定や不動化、長期臥床、宇宙での無重力下での生活後などで生じます。つまり、身体活動不足によって筋肉量が減少し、筋力や身体機能の低下が生じる状態を指します。これは、筋原線維の萎縮、筋組織の脂肪変性、筋肉の脱力性の増加などの生理学的変化が関与していることになります。身体活動不足が原因とされるため、高齢者や寝たきりの方に多く見られ、特に腰や下肢など大きな筋肉群に影響を及ぼす傾向があります。
廃用性筋萎縮による筋肉への影響は、筋力や柔軟性、弾力性、筋肉酸素供給量、筋肉代謝などの機能低下につながります。また、筋肉量の低下は、体軸の安定性や姿勢制御の悪化、関節可動域の制限、骨密度の低下、身体能力の低下などにつながることが知られています。
廃用性筋萎縮は、概ね1日あたり1%のペースで進行していくという報告があります。
ちなみに、加齢による骨格筋の喪失は1年あたり0.5~1%のペースといわれております。
しかし、廃用による筋委縮のペースは常に一定ではなく、不活動が始まった最初の30日間で筋萎縮が特に進みやすいと言われており、30日以降では筋萎縮の程度が軽減するという研究データもあります。
通常、最大筋力の30%の筋活動があれば筋力は維持することができ、40%以上の筋活動であれば筋力増強、20%以下であれば筋力は低下をしていくことが報告されています。
筋活動が無い場合の安静臥位などが多い場合では1日に3~6%、1カ月で50%低下すると言われています。
安静臥床による筋力低下(厚生労働省調べ)
1週間
20%
2週間
36%
3週間
68%
4週間
88%
5週間
96%
※上記の数値はベッド上でほほ活動していなかった場合の数値になります

 
【廃用性筋萎縮の発生メカニズム】

廃用性筋萎縮が発生するメカニズムとしては、筋肉の不活動によって筋肉量が減少することが挙げられます。筋肉が使用されないと、筋線維は萎縮し、筋肉量が低下します。このため、筋力や柔軟性、弾力性などの機能が低下し、関節可動域が制限されることがあります。
筋萎縮には「筋タンパク質」が関係してきます。
筋タンパク質とは筋肉を構成するタンパク質の総称で、収縮に直接関与するアクチンとミオシンのほかに、トロポニンなどの調節タンパク群などがあります。
一般的には健康な成人において、筋タンパク質は合成と分解を繰り返し、合成される量と分解される量は等しく保たれています。
廃用性筋萎縮では筋タンパク質の合成と分解のアンバランスによる筋タンパク質の減少によって引き起こされる筋線維の萎縮(筋断面積の減少)が生じてしまいます。つまり、筋タンパク質の合成を分解が上回ってしまうことで筋萎縮が生じるということになります。
廃用性筋萎縮による影響は筋線維タイプによっても差がある事が知られています。
廃用性筋萎縮は、速筋線維(TypeⅡ線維)よりも遅筋線維(TypeⅠ線維)の方が進みやすいと言われています。
遅筋線維(TypeⅠ線維)の割合が減少し、速筋線維(TypeⅡ線維)の割合が増加する速筋化と呼ばれる筋線維タイプ移行が生じます。
また、伸筋(関節を伸ばす筋肉)よりも屈筋(関節を曲げる筋肉)の方が廃用が進みやすいとも言われております。
これらは特に高齢者で著明にみられることが多いです。これによって、日常生活での動作が困難になり、転倒や骨折のリスクが高まることがあります。他にも、病気や手術、骨折などが原因で寝たきり状態になる場合も、廃用性筋萎縮が発生しやすいとされています。
廃用性筋萎縮には、特に高齢者において起こりやすいとされていますが高齢者においては、筋肉量や筋力が低下することが生理的な現象として認められており、これはサルコペニアと呼ばれています。サルコペニアは、年齢による筋肉量の減少に加え、身体活動の減少、病気や栄養不良などによっても引き起こされます。サルコペニアでは速筋線維(TypeⅡ線維)が優位に萎縮する傾向にあります。高齢者が廃用性筋萎縮を発症した場合、遅筋線維(TypeⅠ線維)と速筋線維(TypeⅡ線維)の両方線維が萎縮してしまいます。そのため、高齢者に対する廃用性筋委縮の治療には、高齢者特有の状況を踏まえたアプローチが必要であり、多職種でのチーム医療が望ましいとされています。

 
【廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?】

リハビリテーションにおいては、主に徒手療法や運動療法、物理療法などが行われます。これらの方法によって、筋肉量の増加や力量の向上、関節可動域の拡大などを促し、廃用性筋萎縮の進行を遅らせることができます。特に、筋力トレーニングは、筋肉を刺激して強くすることで、筋肉量の増加や力量の向上を促すことができます。
筋力トレーニングにおいては「レジスタンストレーニング」という方法が推奨されています。
レジスタンストレーニングとは筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。レジスタンス(Resistance)は和訳で「抵抗」を意味し、運動する人の状態や目的によって自分の体重(自重)やゴム製のチューブ、ダンベルなどで抵抗(負荷量)を調整して行うことができます。
高齢者やコンディションが調節できていない状態にある場合は中等度の強度(最大筋力の60~70%程度)で10~15回を1セット以上行うことが推奨されています。
廃用性筋萎縮では特に下肢、脊柱起立筋などの抗重力筋にみられることが多くなっています。
どの部位に筋萎縮が生じているかを評価し、状態に合わせてトレーニングを開始していくことが望ましいです。また、筋萎縮が起きやすい部位のトレーニングを早期から行うことで廃用性筋萎縮の予防にも繋がってきます。
そしてリハビリテーションを行う上で注意しなければならない重要なことがあります。
それは「過用性筋損傷」です。
過用性筋損傷とは、激しい運動を行うことにより筋細胞に部分的な崩壊が起こることです。
廃用性筋萎縮を発生している時点ですでに筋肉は脆くて弱い状態にあります。この状態でさらに激しい運動や負荷の高い運動を行うことで筋の崩壊はますます著しくなってしまいます。
廃用性筋萎縮になってしまったからといって闇雲に筋力トレーニングをすればいいのではなく、病状や病態に合わせたリハビリプランを組むことが非常に重要です。
また、筋の収縮様式(筋肉の収縮の仕方)にも注意しなければならず、求心性収縮や等尺性収縮に比べ、遠心性収縮の場合の方が過用性筋損傷を引き起こしやすいことから、筋運動の負荷量と筋の収縮様式に十分注意しながらリハビリを進めていくことが望ましいと考えられます。

 
【まとめ】

廃用性筋萎縮は、運動不足や寝たきり状態などによって引き起こされる筋肉の萎縮であり、高齢者や寝たきりの患者さんには特に注意が必要です。リハビリテーションや身体活動が効果的な治療法とされていますが、専門家の指導や支援が必要です。
さらに、廃用性筋萎縮の治療には、予防的なアプローチも重要です。例えば、高齢者や寝たきりの方には、定期的な身体活動や運動が推奨されます。これによって、筋肉量や筋力を維持・改善し、廃用性筋萎縮の予防につながります。また、栄養面や生活習慣面の改善も重要です。適度な栄養摂取や適切な睡眠、ストレス管理などが、筋肉の健康状態を維持するために必要です。
廃用性筋萎縮による筋力低下や活動量低下を戻すには時間を要するケースがほとんどです。
廃用性筋萎縮を引き起こさないためにも日ごろから運動習慣をつけることも予防策の一つになります。ケガや病気をしてしまった状態でも医師や理学療法士などの医療スタッフの指示の元、できる限りの運動を行うように心がけましょう。

 
【参考文献】

1) 髙木大輔.廃用症候群とレジスタンストレーニング.健康科学大学.2021
2) 越智ありさ.廃用性筋萎縮とアミノ酸.生化学第86巻第3号.2014
3) 灰田信英.廃用性筋萎縮の基礎科学.理学療法学第21巻第2号.1994
4) 町田修一.加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)発症の分子機構の解明とその治療・予防法の開発.Jpn J Rehabil Med vol.44 no.3.2007

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脳血管リハビリテーション②

脳血管リハビリテーション②

今回は、右脳と左脳のそれぞれの働きや、脳地図を広げて大まかな脳の役割やメカムズムを説明していきます。また脳血管疾患に対しての、リハビリのアプローチ方法もご覧ください。

脳梗塞後遺症の特定

脳梗塞といっても、後遺症の症状は様々です。出血量や部位により、覚醒度合いや麻痺のレベルも大きく変わってきます。脳の検査として、MRIやCTが代表的なものとして挙げられます。脳画像から梗塞や出血部位の大きさなど、脳の侵襲部位を診てみることで、症状を断言することは出来ないですが、大まかに侵襲部位から症状を大別することは可能です。
今回は、具体的な脳の仕組みや、梗塞、出血等の侵襲から、引き起こされる後遺症を挙げていきます。

優位半球と劣位半球

「右脳」、「左脳」という言い方を、医療用語では、「劣位半球」、「優位半球」と呼びます。一般的に、言語野のある半球を優位半球と呼び、ほとんどの方は、言語野が左半球にあるため、左脳を優位半球、右を劣位半球と呼ぶことが多いです。また右利きの95%以上の人は、左脳に言語があるということがデータで示されています1)。稀なケースとしては、右利きの人が同側半球に損傷を負い失語症が生じる交叉性失語、または左半球に広範な脳梗塞の侵襲がありながらも失語が生じない、交差性非失語症と呼ばれるケースもあります。
劣位半球(右脳)は、損傷により代表的な症状として、半側空間無視、着衣失行、構成障害(全体像の障害)が挙げられます。優位半球(左脳)の損傷は、観念運動失行、Gerstman症候群、構成障害(細部の障害)などが引き起こされます。優位半球、劣位半球は、どの機能を担っていると断言することは出来ませんが、例として左半側空間無視、構成失行に関して、左右脳の違いから起こる機序、実際の生活場面での症状まで述べていきます。
 右脳で多く生じる左半側空間無視においては、左脳も右側の視覚や注意を担っていますが、右脳は左右の両方を担っているため、図1のように右脳を損傷した時に左側への注意が欠損してしまうといった症状に至ることが報告されています2)。構成失行、または構成障害と言われる症状は、組み合わせたり、積み上げたり、描いたりする構成的活動で、上手に空間の中で形成が行えない状態をさします。絵の模写や、パズルなどの構成が必要な活動に支障を来たします。構成失行は、責任病巣として、右脳と左脳ともに存在しますが、障害の質的な差異がみられます。右脳損傷の場合はパズルなど構成する時に、全体の構成がバラバラになってしまう一方で、左脳損傷の場合は、全体のバランス構成は良好だが、細部においては構成出来ないといった特徴がみられます3)
日常生活場面としては、右損傷の左半側空間無視の場合、机上においた食事で、右側に置いたお皿は端が進むが、左側は手が付けられていないといったことが多々みられます。構成障害は、右脳損傷の場合、机の上や棚、カバンの中の整理など、乱雑し整理が難しい反面、細かい部分でペンや小物を並べ整頓は出来るといった特徴が見られます。左右脳のどちらかの損傷によって、症状の特徴が100%断定できることはありません。片側に起こりうる代表的な症状や特徴を理解し、実際の生活場面で、出来ないことを照らし合わせることで、高次脳機能障害や問題点をより明確化することが出来ます。もちろん、机上での評価やテストによっての客観的な評価や、経過を追うことも大事な指標の一つです。
図1:右脳と左脳の視覚経路
図1:右脳と左脳の視覚経路

脳の分類

脳はさまざま方向から見ることが出来ますが、大脳皮質は、大きく分けて、大脳、脳幹、小脳の三つに大別されます。さらに大脳で前頭葉、側頭葉、後頭葉、頭頂葉に分けられます。先ほどは、脳の障害の位置を「左右」で比較してみましたが、脳の働きそれぞれ「地図」として広げて、働きを特定することが出来ます。代表的な脳地図として、図2のBroadmanが挙げられます。前頭葉から、側頭葉、後頭葉、頭頂葉まで、それぞれの区画に番号が示されており、またそこで担っている働きが明らかになっています。
前頭葉
頭頂葉との境の手前に、Broadmanの4に一次運動野が存在し、頭から首、手、足と四肢を自らの意思で動かす(随意運動)を担っています。他にも前頭葉は、運動を他の頭頂葉と連携し運動を統合する、運動補足野、運動前野があります。特に手足を自分の意思で動かせる、随意運動の経路は、前頭葉にある一次運動野、図3のPenfieldのホモンクルムを見てみるとよく分かります。一次運動野の部分を横断面に切り取ると、顔から手、足の絵が曲線に沿って描かれており、身体の具体的な部位を担っている脳の部位を特定することが出来ます。またこの運動野から、中心にそって錐体路という経路に束ねられ、脊髄に降りそれぞれの動かす筋肉へと繋がります。MRIやCTの脳画像から、脳の侵襲部位を見つけて、動かせない部位を特定、または症状と照らし合わせることが出来ます。
側頭葉
優位半球に、失語の責任病巣の一つ、ウェルニッケ野があります。もう一つの失語、ブローカ野は、前頭葉に属します。違いや失語の症状に関しては、高次脳機能の克服シリーズにて述べていきます。
頭頂葉
前頭葉の境目の手前、Broadmanの1に体性感覚野があります。簡単に言うと、前頭葉は随意運動を担っていた一方で、頭頂葉では、身体の四肢からの感覚を集約し担っています。感覚といっても種類は、いくつかあり皮膚に触れて感じる表在感覚、関節の各位置を把握する深部感覚などが挙げられます。先程、前頭葉で紹介した随意運動を束ねる錐体路の他に、体性感覚を束ねる感覚路が、この頭頂葉にある感覚路から、また脳の中心へ落ち、脊髄、各関節へと繋がっています。この前頭葉の一次運動野か、頭頂葉の感覚野の部位、または四肢へ辿る経路に侵襲が起こることで、運動や感覚に及ぼす後遺症の症状は様々です。身体は動かそうと脳から身体への伝達は良好だが、感覚の経路に障害があると、動かせてもバランスが上手く取れない、歩き方が変になってしまうといった症状がみられます。感覚と運動は、動作を遂行する中で、お互いに不可欠な関係です。
後頭葉
特に頭頂葉に存在する感覚を補うことが出来る視覚野が存在します。健常な方でも、対人や凸凹道を歩くときに、視覚からの情報も合わせてバランスを取れる場面があると思います。感覚野、またはその経路において障害が起こる場合は、体性感覚は乏しいもの、目をみることで感覚を得て、動作を補うことが可能です。この障害があることに対して、他の機能で代替し補うことを代償と呼びます。
図2:Broadmanの脳地図
図2:Broadmanの脳地図
図3:Penfieldのホモンクルム
図3:Penfieldのホモンクルム

リハビリベース国分寺の脳血管アプローチ

今回の脳血管リハビリテーション②では、脳の左右による働きの違いや、脳地図を広げてそれぞれの役割を大まかにみてきました。今回挙げた脳の部位や働きは、日常生活を送る上で、非常に大切な機能です。脳や身体は不思議なことに、一部分に脳損傷が引き起こされ、回復が難しい場面でも、障害のある機能を少しでも改善していくことや、他の機能が障害を補うことで、乗り越えることが出来るケースが多々あります。そのように障害を乗り越えていくプロセスとして、リハビリが必要となります。「諦めていた」、「もう難しいのではないか?」そんな悩みや不安を、リハビリベース国分寺では、相談して頂き、解決する手段を共に探していきます。脳梗塞が起こり片麻痺、または対麻痺が生じたからといって、全てが失われたことではありません。脳の侵襲部位を特定し、残存している機能を探す。弱った部分を強くするまたは、可能性を最大限に引き出すことで、困難であった動作、または活動を可能にすることが出来ます。損傷されたことで、諦めることは未だ早いです。脳と身体の大きな可能性を無限に広げていくことを、リハビリベース国分寺の一つの大きな柱と掲げています。リハビリベース国分寺での、脳血管疾患へのアプローチとして、以下の3つを最大限に引き出すことで、希望である目標やライフゴールの達成を目指していきます(図4)。

1) 障害部位の促通、強化
2) 残存機能による代償
3) 環境調整による動作獲得

1つ目に、障害部位の促通、強化を、最大限に負荷をかけて改善を図っていきます。障害部位に対し、脳の可塑性や、随意性の向上など、様々な議論がありますが、回復期を経た維持期でも身体機能が向上していくことは、脳血管リハビリテーション①でも述べさせて頂きました。実際にリハビリベース国分寺の利用者様の中でも、麻痺のある部位を動かす頻度を上げる(筋の発火頻度)、麻痺によって失われた筋力の強化を図っていく(筋力増強)ことで、動作改善や目標を達成できた等、リハビリ過程で変化が多くみられます。また障害は、四肢の麻痺の話だけではなく、高次脳機能障害やバランス、メンタル面の向上も挙げられます。覚醒の度合いから、注意機能、言語など、アプローチに関して高次脳機能の克服シリーズにて具体的に述べさせて頂いています。
2つ目に、麻痺や障害部位に対して、最大限に力を引き出していくために、残存機能を上手く使っていくことが、リハビリのプロセスで鍵となっていきます。先程、脳の分類の中で、運動と感覚を担っている脳の機能を挙げましたが、麻痺の中でも、四肢は動かせるが、上手に使うことが出来ないといった症状がみられます。これは、運動神経が錐体路を通って、動かしたい筋肉に伝達されているが、感覚として皮膚や関節位置など脳に伝達されずに、力が上手くコントロール出来ないといった症状が引き起こされます。それでは、感覚の乏しさを補うため、視覚の代償により動作を学習していく方法があります。これは、動作のみならず、注意障害や失行などの高次脳機能障害に対しても有効に働きます。例としては、視覚による代償を挙げましたが、他には麻痺ではない片側(非麻痺側)のコントロールや、手や足の先(抹消部位)に強い筋緊張が生じている場合などに、体幹から股関節や肩と近い部分を強くしていくといったアプローチがあります。
3つ目は、自宅内での家屋調整、家族またはサービスによる助け、麻痺に対して装具を使用し動作を改善、獲得していくことも環境調整の一つです。障害部位の弱った機能を最大限に上げていく。またそれに加えて、日常生活動作の獲得に向けて、残った機能を活かしていく。そのプロセスを重ねた上でも、動作獲得のため到達が難しい場面では、手すりの設置や食事に使う補助具など、周りの環境を上手く使用し、困難な部分を埋めていく作業を行います。住環境などのアプローチにおいても、リハビリベース国分寺が大切にしていることは、ご家族様とのコミュニケーションです。私たちは、リハビリの場面で密に関わることが出来ますが、ご利用者様と多くの時間を過ごしているのはご家族の方々です。リハビリの力を最大限に活かすのも、ご家族様の協力を得て成り立つものです。日頃の生活状況を聞くことや、ご家族がサポート可能な部分、または出来ない部分を聞かせて頂き、目標達成に向けて、サービスや環境の調整を慎重に進めていきます。ご利用者様の笑顔が、いずれご家族様の笑顔に繋がっていくことは、リハビリベース国分寺にて大きく感じる一つです。
図4:リハビリ有無の比較

【引用文献】

1)木村暁.(1989).交差性失語絡みた「右脳と言語」.失語症研究Vol.9,No.3:177~183. 1989.9
2)石合純夫.(2008). 半側空間無視へのアプローチ. 高次脳研究28(3):247~256, 2008.
3) 近藤文里.(1984). 大脳片側半球損傷患者における構成活動の障害. 滋賀大学教育学部紀
要, No.34 pp.127-138,1984.

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。