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廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群は関節拘縮、筋萎縮(筋力低下)、骨萎縮(骨粗鬆症)など運動器系の変化のみでなく、起立性低血圧、深部静脈血栓症、消化管運動の低下、認知機能低下など循環器や消化器、精神機能など多岐にわたる器官の機能低下が生じます。
今回のブログでは廃用症候群により循環器系や消化器系へどのような症状が出てしまうのかまとめています。

 
【目次】

●循環器系への影響
  ➀運動耐容能低下
  ➁起立性低血圧
  ➂静脈血栓
●呼吸器系への影響
  ➀換気障害
  ➁誤嚥性肺炎
●まとめ

 
【循環器系への影響】

長期に渡る安静臥床により、心機能、循環器機能に様々な廃用症候群が発生します。
低運動が続くことで、心臓のポンプ機能が低下し一回心拍出量が減少します。拍出量が減少することで安静時や運動時心拍数の増加、循環血液量の減少に伴い、全身の血液循環が悪くなってしまいます。このようなことから血管運動調節機能(血圧調節)の低下や血液の粘性の増加、心機能の低下による運動困難などが発生します。
これらの症状を➀運動耐容能低下➁起立性低血圧③静脈血栓に分け、それぞれの症状を詳しくみていきましょう。
➀運動耐容能低下
運動耐容能とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。
循環機能として酸素運搬機能に不動が影響すると、全身持久力低下により、脱力感や易疲労性が生じます。
20 日間のベッドでの安静臥床により、健康な若年男性の最大心拍出量が 26%減少したという報告がされています。これは、心筋の萎縮による心機能変化と循環血液量の減少によるものと考えられます。
全身持久力は、最大酸素摂取量を測定することにより評価できます。臥床日数が長くなればなるほど最大酸素摂取量は減ってきます。最大酸素摂取量は心臓のポンプ機能と骨格筋の酸素利用能により決定されるので、廃用症候群によりの両者が低下したことで最大酸素摂取量が減少したと考えられます。ただし、トレーニングにより心機能や最大酸素摂取量が回復することが証明されており、さらに全身持久力の低い人は、トレーニングにより最大酸素摂取量を元の値よりさらに増加させることができることを報告しています。
➁起立性低血圧
臥位から急に立ち上がった際に、立ちくらみ、めまい、収縮期血圧の低下などを生じる起立性低血圧も廃用症候群による循環器への影響の代表的な症状です。立つことにより血液が下肢に貯留され、静脈還流量が減少し、心臓の拡張期容量が減少することで収縮期血圧が低下し、その結果、脳の血液循環が低下して、めまいなどを起こします。
また、不動や長期臥床で交感神経活動が障害されるため、下肢の血管収縮が不十分となり静脈還流量が減少することで1 回心拍出量の低下をもたらし脳血液量が低下します。高齢者や重症の患者さんは 2~3 日で出現することもあります。主な症状は顔面蒼白、発汗、めまい、軽い頭痛などで、ひどくなれば失神をきたすことになります。いったん破綻した交感神経系の機能を戻すにはかなりな訓練期間を要します。
要するに循環血液量低下と血管運動調節機能障害、心筋機能の低下が、起立性低血圧や眩暈や失神症状を引き起こしてしまうということになります。
➂静脈血栓
廃用症候群による循環器への影響の中でも非常に危険な症状が深部静脈血栓です。
不動による下肢筋群の筋収縮-弛緩ポンプ作用の減少が、血流の停滞、循環血漿量の減少による血液凝固能を亢進させて、静脈血栓が生じます。
循環血液量は安静臥床後 2 週間で血漿量の 8~12%、2~4 週間で 15~20%減少するといわれています。その結果、血液粘稠度は増加し静脈血栓の危険性が高まります。
つまり、血液がドロドロになってしまい、血栓と呼ばれる血の塊が出来てしまうということになります。
血栓は特にふくらはぎにあらわれやすく、むくみや痛みの原因にもなります。
また、血栓は血流にのって全身に運ばれ、血管を詰まらせることがあり、肺動脈を詰まらせる肺血栓塞栓症が代表的です。肺血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」という名称でも知られています。
肺血栓塞栓症になると、肺での酸素・血液の交換がうまく行われなくなり、症状を放置すると、呼吸不全や低血圧によって命を落とすこともあるため、深部静脈血栓の予防や早期発見と早期治療が必要です。

 
【呼吸器系への影響】

廃用症候群による呼吸器系への影響として挙げられるのは、息切れや誤嚥などです。
筋肉といえば腕や脚のイメージが強いですが、咽頭部や体内にも存在します。
たとえば呼吸をするときは、呼吸筋(横隔膜と肋間筋)が収縮しますが、呼吸筋が衰えると、肺の伸縮がうまくいかなくなったり、肺の中の空気を十分に出し入れできなくなったりする換気能力の低下により、軽い運動でも息切れしやすくなります。
また、咽頭部周囲の筋肉が衰えると食べ物や水などをうまく飲み込めずに気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなります。
飲み込んだものが気管支に入り、むせたり肺炎になったりすることも少なくありません。
誤嚥による肺炎は「誤嚥性肺炎」と呼ばれ、高齢者には命の危険のある疾患です。
これらの症状を➀換気障害、➁誤嚥性肺炎に分け詳しく解説していきます。
➀換気障害
長期に渡る安静臥床により呼吸運動も少なくなり、胸郭の可動性の低下、横隔膜や肋間筋の運動が制限され、筋力が低下します。
呼吸筋の筋力低下、胸郭の可動域制限は、一回換気量、分時換気量、肺活量、機能的残気量の低下を減少させ、その結果、拘束性換気障害が生じます。つまり肺活量の減少や1回換気量の減少です。また換気量が減少することと過剰拡散が生じるために換気血流比が不均一となり、動脈血酸素濃度も低下します。
さらに、換気量の減少と腹筋群の筋力低下などにより咳嗽力(がいそうりょく/咳をする力)も低下します。咳をする力が弱まることで誤嚥のリスクも増加し、その結果、肺炎や無気肺なども生じることがあります。
➁誤嚥性肺炎
物を飲み込む働きを嚥下機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。
背臥位の姿勢が続くと、重力によって細気管支のより低い部分に粘液が溜まり、気管支線毛の浄化機能が損傷され、細菌感染の基盤となってしまいます。このような場合では口腔内の清潔が十分に保たれていないこともあり、口腔内で肺炎の原因となる細菌がより多く増殖してしまいます。また、咳反射が弱くなり嚥下機能が低下し、その結果、口腔内の細菌が気管から肺へと吸引され、肺炎を発症します。
誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされます。
また、栄養状態が不良であることや免疫機能の低下なども発症に関与してきます。
発熱、咳、膿のような痰が肺炎の典型的な症状ですがこれらの症状がなく、なんとなく元気がない、食欲がない、のどがゴロゴロとなる、などの非特異的な症状のみがみられることが多いのが誤嚥性肺炎の特徴です。
治療としては抗菌薬を用いた薬物療法が基本ですが呼吸状態や全身状態が不良な場合は入院して治療を行います。同時に口腔ケアの徹底、嚥下指導も重要です。

 
【まとめ】

廃用症候群の中でも骨格筋の筋力低下や関節可動域制限についてよく注目されてしまいますが、深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎など命に直結してしまうような影響もたくさんあります。
第一に廃用症候群を引き起こさないことが重要なポイントになりますが、一旦発症してしまうと、その回復は特に高齢の場合、困難になってしまうケースがあります。できるだけ予防に努めることが大切です。
骨格筋や関節可動域に関してもそうですが、循環器や呼吸器への影響を最小限にするためにはリハビリが必要です。身体を動かすリハビリはもちろん、嚥下機能や呼吸に関する筋へのリハビリ、栄養管理、口腔ケアを行い、予防に努めましょう。

 
【参考文献】

1)一般社団法人 日本呼吸器学会
2)伊藤良介.廃用症候群.日本義肢装具学会誌Vol.14 No.1.1998
3)長尾光修.Ⅰ.診断と病態 9.運動耐容能.日本内科学会雑誌 第90巻 第5号.2001
4)佐藤知香ら.安静臥床が及ぼす全身の影響と離床や運動負荷の効果について.Jpn J Rehabil Med vol.56 no.11.2019
5)園田茂.不動・廃用症候群.Jpn J Rehabil Med vol.52 no.4/5.2015

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廃用性筋萎縮ってなに?

廃用性筋萎縮ってなに?

筋肉や神経に障害がなくても、筋肉を使用しなければ「萎縮」といって筋肉が痩せてきてしまいます。これを「廃用性筋萎縮」といいます。
今回のブログでは廃用性筋萎縮がどのようにして起きてしまうのか、どう対処するのかをまとめています。

 
【目次】

●廃用性筋萎縮とは
●廃用性筋萎縮の発生メカニズム
●廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?
●まとめ

 
【廃用性筋萎縮とは】

廃用性筋萎縮とは、ギプス固定や不動化、長期臥床、宇宙での無重力下での生活後などで生じます。つまり、身体活動不足によって筋肉量が減少し、筋力や身体機能の低下が生じる状態を指します。これは、筋原線維の萎縮、筋組織の脂肪変性、筋肉の脱力性の増加などの生理学的変化が関与していることになります。身体活動不足が原因とされるため、高齢者や寝たきりの方に多く見られ、特に腰や下肢など大きな筋肉群に影響を及ぼす傾向があります。
廃用性筋萎縮による筋肉への影響は、筋力や柔軟性、弾力性、筋肉酸素供給量、筋肉代謝などの機能低下につながります。また、筋肉量の低下は、体軸の安定性や姿勢制御の悪化、関節可動域の制限、骨密度の低下、身体能力の低下などにつながることが知られています。
廃用性筋萎縮は、概ね1日あたり1%のペースで進行していくという報告があります。
ちなみに、加齢による骨格筋の喪失は1年あたり0.5~1%のペースといわれております。
しかし、廃用による筋委縮のペースは常に一定ではなく、不活動が始まった最初の30日間で筋萎縮が特に進みやすいと言われており、30日以降では筋萎縮の程度が軽減するという研究データもあります。
通常、最大筋力の30%の筋活動があれば筋力は維持することができ、40%以上の筋活動であれば筋力増強、20%以下であれば筋力は低下をしていくことが報告されています。
筋活動が無い場合の安静臥位などが多い場合では1日に3~6%、1カ月で50%低下すると言われています。
安静臥床による筋力低下(厚生労働省調べ)
1週間
20%
2週間
36%
3週間
68%
4週間
88%
5週間
96%
※上記の数値はベッド上でほほ活動していなかった場合の数値になります

 
【廃用性筋萎縮の発生メカニズム】

廃用性筋萎縮が発生するメカニズムとしては、筋肉の不活動によって筋肉量が減少することが挙げられます。筋肉が使用されないと、筋線維は萎縮し、筋肉量が低下します。このため、筋力や柔軟性、弾力性などの機能が低下し、関節可動域が制限されることがあります。
筋萎縮には「筋タンパク質」が関係してきます。
筋タンパク質とは筋肉を構成するタンパク質の総称で、収縮に直接関与するアクチンとミオシンのほかに、トロポニンなどの調節タンパク群などがあります。
一般的には健康な成人において、筋タンパク質は合成と分解を繰り返し、合成される量と分解される量は等しく保たれています。
廃用性筋萎縮では筋タンパク質の合成と分解のアンバランスによる筋タンパク質の減少によって引き起こされる筋線維の萎縮(筋断面積の減少)が生じてしまいます。つまり、筋タンパク質の合成を分解が上回ってしまうことで筋萎縮が生じるということになります。
廃用性筋萎縮による影響は筋線維タイプによっても差がある事が知られています。
廃用性筋萎縮は、速筋線維(TypeⅡ線維)よりも遅筋線維(TypeⅠ線維)の方が進みやすいと言われています。
遅筋線維(TypeⅠ線維)の割合が減少し、速筋線維(TypeⅡ線維)の割合が増加する速筋化と呼ばれる筋線維タイプ移行が生じます。
また、伸筋(関節を伸ばす筋肉)よりも屈筋(関節を曲げる筋肉)の方が廃用が進みやすいとも言われております。
これらは特に高齢者で著明にみられることが多いです。これによって、日常生活での動作が困難になり、転倒や骨折のリスクが高まることがあります。他にも、病気や手術、骨折などが原因で寝たきり状態になる場合も、廃用性筋萎縮が発生しやすいとされています。
廃用性筋萎縮には、特に高齢者において起こりやすいとされていますが高齢者においては、筋肉量や筋力が低下することが生理的な現象として認められており、これはサルコペニアと呼ばれています。サルコペニアは、年齢による筋肉量の減少に加え、身体活動の減少、病気や栄養不良などによっても引き起こされます。サルコペニアでは速筋線維(TypeⅡ線維)が優位に萎縮する傾向にあります。高齢者が廃用性筋萎縮を発症した場合、遅筋線維(TypeⅠ線維)と速筋線維(TypeⅡ線維)の両方線維が萎縮してしまいます。そのため、高齢者に対する廃用性筋委縮の治療には、高齢者特有の状況を踏まえたアプローチが必要であり、多職種でのチーム医療が望ましいとされています。

 
【廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?】

リハビリテーションにおいては、主に徒手療法や運動療法、物理療法などが行われます。これらの方法によって、筋肉量の増加や力量の向上、関節可動域の拡大などを促し、廃用性筋萎縮の進行を遅らせることができます。特に、筋力トレーニングは、筋肉を刺激して強くすることで、筋肉量の増加や力量の向上を促すことができます。
筋力トレーニングにおいては「レジスタンストレーニング」という方法が推奨されています。
レジスタンストレーニングとは筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。レジスタンス(Resistance)は和訳で「抵抗」を意味し、運動する人の状態や目的によって自分の体重(自重)やゴム製のチューブ、ダンベルなどで抵抗(負荷量)を調整して行うことができます。
高齢者やコンディションが調節できていない状態にある場合は中等度の強度(最大筋力の60~70%程度)で10~15回を1セット以上行うことが推奨されています。
廃用性筋萎縮では特に下肢、脊柱起立筋などの抗重力筋にみられることが多くなっています。
どの部位に筋萎縮が生じているかを評価し、状態に合わせてトレーニングを開始していくことが望ましいです。また、筋萎縮が起きやすい部位のトレーニングを早期から行うことで廃用性筋萎縮の予防にも繋がってきます。
そしてリハビリテーションを行う上で注意しなければならない重要なことがあります。
それは「過用性筋損傷」です。
過用性筋損傷とは、激しい運動を行うことにより筋細胞に部分的な崩壊が起こることです。
廃用性筋萎縮を発生している時点ですでに筋肉は脆くて弱い状態にあります。この状態でさらに激しい運動や負荷の高い運動を行うことで筋の崩壊はますます著しくなってしまいます。
廃用性筋萎縮になってしまったからといって闇雲に筋力トレーニングをすればいいのではなく、病状や病態に合わせたリハビリプランを組むことが非常に重要です。
また、筋の収縮様式(筋肉の収縮の仕方)にも注意しなければならず、求心性収縮や等尺性収縮に比べ、遠心性収縮の場合の方が過用性筋損傷を引き起こしやすいことから、筋運動の負荷量と筋の収縮様式に十分注意しながらリハビリを進めていくことが望ましいと考えられます。

 
【まとめ】

廃用性筋萎縮は、運動不足や寝たきり状態などによって引き起こされる筋肉の萎縮であり、高齢者や寝たきりの患者さんには特に注意が必要です。リハビリテーションや身体活動が効果的な治療法とされていますが、専門家の指導や支援が必要です。
さらに、廃用性筋萎縮の治療には、予防的なアプローチも重要です。例えば、高齢者や寝たきりの方には、定期的な身体活動や運動が推奨されます。これによって、筋肉量や筋力を維持・改善し、廃用性筋萎縮の予防につながります。また、栄養面や生活習慣面の改善も重要です。適度な栄養摂取や適切な睡眠、ストレス管理などが、筋肉の健康状態を維持するために必要です。
廃用性筋萎縮による筋力低下や活動量低下を戻すには時間を要するケースがほとんどです。
廃用性筋萎縮を引き起こさないためにも日ごろから運動習慣をつけることも予防策の一つになります。ケガや病気をしてしまった状態でも医師や理学療法士などの医療スタッフの指示の元、できる限りの運動を行うように心がけましょう。

 
【参考文献】

1) 髙木大輔.廃用症候群とレジスタンストレーニング.健康科学大学.2021
2) 越智ありさ.廃用性筋萎縮とアミノ酸.生化学第86巻第3号.2014
3) 灰田信英.廃用性筋萎縮の基礎科学.理学療法学第21巻第2号.1994
4) 町田修一.加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)発症の分子機構の解明とその治療・予防法の開発.Jpn J Rehabil Med vol.44 no.3.2007

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脳血管リハビリテーション②

脳血管リハビリテーション②

今回は、右脳と左脳のそれぞれの働きや、脳地図を広げて大まかな脳の役割やメカムズムを説明していきます。また脳血管疾患に対しての、リハビリのアプローチ方法もご覧ください。

脳梗塞後遺症の特定

脳梗塞といっても、後遺症の症状は様々です。出血量や部位により、覚醒度合いや麻痺のレベルも大きく変わってきます。脳の検査として、MRIやCTが代表的なものとして挙げられます。脳画像から梗塞や出血部位の大きさなど、脳の侵襲部位を診てみることで、症状を断言することは出来ないですが、大まかに侵襲部位から症状を大別することは可能です。
今回は、具体的な脳の仕組みや、梗塞、出血等の侵襲から、引き起こされる後遺症を挙げていきます。

優位半球と劣位半球

「右脳」、「左脳」という言い方を、医療用語では、「劣位半球」、「優位半球」と呼びます。一般的に、言語野のある半球を優位半球と呼び、ほとんどの方は、言語野が左半球にあるため、左脳を優位半球、右を劣位半球と呼ぶことが多いです。また右利きの95%以上の人は、左脳に言語があるということがデータで示されています1)。稀なケースとしては、右利きの人が同側半球に損傷を負い失語症が生じる交叉性失語、または左半球に広範な脳梗塞の侵襲がありながらも失語が生じない、交差性非失語症と呼ばれるケースもあります。
劣位半球(右脳)は、損傷により代表的な症状として、半側空間無視、着衣失行、構成障害(全体像の障害)が挙げられます。優位半球(左脳)の損傷は、観念運動失行、Gerstman症候群、構成障害(細部の障害)などが引き起こされます。優位半球、劣位半球は、どの機能を担っていると断言することは出来ませんが、例として左半側空間無視、構成失行に関して、左右脳の違いから起こる機序、実際の生活場面での症状まで述べていきます。
 右脳で多く生じる左半側空間無視においては、左脳も右側の視覚や注意を担っていますが、右脳は左右の両方を担っているため、図1のように右脳を損傷した時に左側への注意が欠損してしまうといった症状に至ることが報告されています2)。構成失行、または構成障害と言われる症状は、組み合わせたり、積み上げたり、描いたりする構成的活動で、上手に空間の中で形成が行えない状態をさします。絵の模写や、パズルなどの構成が必要な活動に支障を来たします。構成失行は、責任病巣として、右脳と左脳ともに存在しますが、障害の質的な差異がみられます。右脳損傷の場合はパズルなど構成する時に、全体の構成がバラバラになってしまう一方で、左脳損傷の場合は、全体のバランス構成は良好だが、細部においては構成出来ないといった特徴がみられます3)
日常生活場面としては、右損傷の左半側空間無視の場合、机上においた食事で、右側に置いたお皿は端が進むが、左側は手が付けられていないといったことが多々みられます。構成障害は、右脳損傷の場合、机の上や棚、カバンの中の整理など、乱雑し整理が難しい反面、細かい部分でペンや小物を並べ整頓は出来るといった特徴が見られます。左右脳のどちらかの損傷によって、症状の特徴が100%断定できることはありません。片側に起こりうる代表的な症状や特徴を理解し、実際の生活場面で、出来ないことを照らし合わせることで、高次脳機能障害や問題点をより明確化することが出来ます。もちろん、机上での評価やテストによっての客観的な評価や、経過を追うことも大事な指標の一つです。
図1:右脳と左脳の視覚経路
図1:右脳と左脳の視覚経路

脳の分類

脳はさまざま方向から見ることが出来ますが、大脳皮質は、大きく分けて、大脳、脳幹、小脳の三つに大別されます。さらに大脳で前頭葉、側頭葉、後頭葉、頭頂葉に分けられます。先ほどは、脳の障害の位置を「左右」で比較してみましたが、脳の働きそれぞれ「地図」として広げて、働きを特定することが出来ます。代表的な脳地図として、図2のBroadmanが挙げられます。前頭葉から、側頭葉、後頭葉、頭頂葉まで、それぞれの区画に番号が示されており、またそこで担っている働きが明らかになっています。
前頭葉
頭頂葉との境の手前に、Broadmanの4に一次運動野が存在し、頭から首、手、足と四肢を自らの意思で動かす(随意運動)を担っています。他にも前頭葉は、運動を他の頭頂葉と連携し運動を統合する、運動補足野、運動前野があります。特に手足を自分の意思で動かせる、随意運動の経路は、前頭葉にある一次運動野、図3のPenfieldのホモンクルムを見てみるとよく分かります。一次運動野の部分を横断面に切り取ると、顔から手、足の絵が曲線に沿って描かれており、身体の具体的な部位を担っている脳の部位を特定することが出来ます。またこの運動野から、中心にそって錐体路という経路に束ねられ、脊髄に降りそれぞれの動かす筋肉へと繋がります。MRIやCTの脳画像から、脳の侵襲部位を見つけて、動かせない部位を特定、または症状と照らし合わせることが出来ます。
側頭葉
優位半球に、失語の責任病巣の一つ、ウェルニッケ野があります。もう一つの失語、ブローカ野は、前頭葉に属します。違いや失語の症状に関しては、高次脳機能の克服シリーズにて述べていきます。
頭頂葉
前頭葉の境目の手前、Broadmanの1に体性感覚野があります。簡単に言うと、前頭葉は随意運動を担っていた一方で、頭頂葉では、身体の四肢からの感覚を集約し担っています。感覚といっても種類は、いくつかあり皮膚に触れて感じる表在感覚、関節の各位置を把握する深部感覚などが挙げられます。先程、前頭葉で紹介した随意運動を束ねる錐体路の他に、体性感覚を束ねる感覚路が、この頭頂葉にある感覚路から、また脳の中心へ落ち、脊髄、各関節へと繋がっています。この前頭葉の一次運動野か、頭頂葉の感覚野の部位、または四肢へ辿る経路に侵襲が起こることで、運動や感覚に及ぼす後遺症の症状は様々です。身体は動かそうと脳から身体への伝達は良好だが、感覚の経路に障害があると、動かせてもバランスが上手く取れない、歩き方が変になってしまうといった症状がみられます。感覚と運動は、動作を遂行する中で、お互いに不可欠な関係です。
後頭葉
特に頭頂葉に存在する感覚を補うことが出来る視覚野が存在します。健常な方でも、対人や凸凹道を歩くときに、視覚からの情報も合わせてバランスを取れる場面があると思います。感覚野、またはその経路において障害が起こる場合は、体性感覚は乏しいもの、目をみることで感覚を得て、動作を補うことが可能です。この障害があることに対して、他の機能で代替し補うことを代償と呼びます。
図2:Broadmanの脳地図
図2:Broadmanの脳地図
図3:Penfieldのホモンクルム
図3:Penfieldのホモンクルム

リハビリベース国分寺の脳血管アプローチ

今回の脳血管リハビリテーション②では、脳の左右による働きの違いや、脳地図を広げてそれぞれの役割を大まかにみてきました。今回挙げた脳の部位や働きは、日常生活を送る上で、非常に大切な機能です。脳や身体は不思議なことに、一部分に脳損傷が引き起こされ、回復が難しい場面でも、障害のある機能を少しでも改善していくことや、他の機能が障害を補うことで、乗り越えることが出来るケースが多々あります。そのように障害を乗り越えていくプロセスとして、リハビリが必要となります。「諦めていた」、「もう難しいのではないか?」そんな悩みや不安を、リハビリベース国分寺では、相談して頂き、解決する手段を共に探していきます。脳梗塞が起こり片麻痺、または対麻痺が生じたからといって、全てが失われたことではありません。脳の侵襲部位を特定し、残存している機能を探す。弱った部分を強くするまたは、可能性を最大限に引き出すことで、困難であった動作、または活動を可能にすることが出来ます。損傷されたことで、諦めることは未だ早いです。脳と身体の大きな可能性を無限に広げていくことを、リハビリベース国分寺の一つの大きな柱と掲げています。リハビリベース国分寺での、脳血管疾患へのアプローチとして、以下の3つを最大限に引き出すことで、希望である目標やライフゴールの達成を目指していきます(図4)。

1) 障害部位の促通、強化
2) 残存機能による代償
3) 環境調整による動作獲得

1つ目に、障害部位の促通、強化を、最大限に負荷をかけて改善を図っていきます。障害部位に対し、脳の可塑性や、随意性の向上など、様々な議論がありますが、回復期を経た維持期でも身体機能が向上していくことは、脳血管リハビリテーション①でも述べさせて頂きました。実際にリハビリベース国分寺の利用者様の中でも、麻痺のある部位を動かす頻度を上げる(筋の発火頻度)、麻痺によって失われた筋力の強化を図っていく(筋力増強)ことで、動作改善や目標を達成できた等、リハビリ過程で変化が多くみられます。また障害は、四肢の麻痺の話だけではなく、高次脳機能障害やバランス、メンタル面の向上も挙げられます。覚醒の度合いから、注意機能、言語など、アプローチに関して高次脳機能の克服シリーズにて具体的に述べさせて頂いています。
2つ目に、麻痺や障害部位に対して、最大限に力を引き出していくために、残存機能を上手く使っていくことが、リハビリのプロセスで鍵となっていきます。先程、脳の分類の中で、運動と感覚を担っている脳の機能を挙げましたが、麻痺の中でも、四肢は動かせるが、上手に使うことが出来ないといった症状がみられます。これは、運動神経が錐体路を通って、動かしたい筋肉に伝達されているが、感覚として皮膚や関節位置など脳に伝達されずに、力が上手くコントロール出来ないといった症状が引き起こされます。それでは、感覚の乏しさを補うため、視覚の代償により動作を学習していく方法があります。これは、動作のみならず、注意障害や失行などの高次脳機能障害に対しても有効に働きます。例としては、視覚による代償を挙げましたが、他には麻痺ではない片側(非麻痺側)のコントロールや、手や足の先(抹消部位)に強い筋緊張が生じている場合などに、体幹から股関節や肩と近い部分を強くしていくといったアプローチがあります。
3つ目は、自宅内での家屋調整、家族またはサービスによる助け、麻痺に対して装具を使用し動作を改善、獲得していくことも環境調整の一つです。障害部位の弱った機能を最大限に上げていく。またそれに加えて、日常生活動作の獲得に向けて、残った機能を活かしていく。そのプロセスを重ねた上でも、動作獲得のため到達が難しい場面では、手すりの設置や食事に使う補助具など、周りの環境を上手く使用し、困難な部分を埋めていく作業を行います。住環境などのアプローチにおいても、リハビリベース国分寺が大切にしていることは、ご家族様とのコミュニケーションです。私たちは、リハビリの場面で密に関わることが出来ますが、ご利用者様と多くの時間を過ごしているのはご家族の方々です。リハビリの力を最大限に活かすのも、ご家族様の協力を得て成り立つものです。日頃の生活状況を聞くことや、ご家族がサポート可能な部分、または出来ない部分を聞かせて頂き、目標達成に向けて、サービスや環境の調整を慎重に進めていきます。ご利用者様の笑顔が、いずれご家族様の笑顔に繋がっていくことは、リハビリベース国分寺にて大きく感じる一つです。
図4:リハビリ有無の比較

【引用文献】

1)木村暁.(1989).交差性失語絡みた「右脳と言語」.失語症研究Vol.9,No.3:177~183. 1989.9
2)石合純夫.(2008). 半側空間無視へのアプローチ. 高次脳研究28(3):247~256, 2008.
3) 近藤文里.(1984). 大脳片側半球損傷患者における構成活動の障害. 滋賀大学教育学部紀
要, No.34 pp.127-138,1984.

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。

寝たきり?廃用症候群を防げ!!

寝たきり?廃用症候群を防げ!!

「寝たきり」や「廃用症候群」一度は耳にしたことありませんか?
今回のブログでは寝たきりや廃用症候群についての内容をまとめています。

 
【目次】

●寝たきりとは
●寝たきりになる原因
●寝たきりと廃用症候群
●廃用症候群とリハビリ
●まとめ

 
【寝たきりとは】

「寝たきり」は、身体の状態を表す言葉で、病気やけがなどによって、長期間にわたって寝たままの状態が続くことを指しますが「寝たきり」という言葉には明確な定義はないとされています。
厚生労働省では「おおむね6カ月以上病床で過ごす者」とされています。しかし、寝たきり度の判定基準として介護保険申請の際の意見書で記載する「障害高齢者の日常生活自立度(JABC)」の中で,ランク B(車椅子利用レベル)も寝たきりとして取り扱われていることから、必ずしも言葉通りの“ベッドの上から動かない人”のことを指しているわけではないです。
区分
ランク
条件
生活自立
ランクJ
何らかの障がい等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する。
1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する
準寝たきり
ランクA
屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしでは外出しない。
1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活をしている
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている
寝たきり
ランクB
屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ
1.車いすに移乗し、食事、排せつはベッドから離れて行う
2.介助により車いすに移乗する
ランクC
1日中ベッド上で過ごし、排せつ、食事、着替において介助を要する
1.自力で寝返りをうつ
2.自力では寝返りもうてない

 
【寝たきりになる原因】

寝たきりになってしまう原因としては以下のものが挙げられます。
・脳血管疾患
・心疾患
・関節疾患
・骨折や転倒
・かぜ、肺炎
・リウマチ、関節炎
・認知症
・高齢による衰弱

最近の調査(2019年)では、寝たきりになる原因の中で1位:認知症(24.3%)、2位:脳血管疾患(19.2%)、3位:高齢による衰弱(11.2%)、4位:骨折・転倒(12.0%)、5位:関節疾患(6.9%)、6位:心疾患(3.3%)という結果でした。
2013年の調査までは脳血管疾患による寝たきりが1位でしたが2013年以降、認知症による寝たきりが増加傾向にあります。
増加している理由は定かではないですが、平均寿命が延びていることや、脳血管疾患や関節疾患などに対するリハビリが早期から介入することが多くなり、寝たきりを予防できているのではないかと考えられます。
そして、このような病気やケガにより臥床期間が長くなることで廃用症候群を発症してしまうリスクも非常に高いです。

 
【寝たきりと廃用症候群】

廃用症候群とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することや活動性低下による身体機能の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状のことをいいます。
廃用症候群の進行は速く、特に高齢者ではその現象が顕著です。1週間寝たままの状態を続けると、10~15%程度の筋力低下が見られるといわれています。
さらに、気分的な落ち込みが現れることにより、うつ状態になったり、やる気が減退したりと、精神的な機能低下もよく見られます。
廃用症候群は、主に「運動器障害」「循環・呼吸器障害」「消化器障害」「泌尿器障害」「自律神経・精神障害」「褥瘡」などを引き起こします。
運動器障害
身体を動かさないことによって起こる「筋萎縮・筋力低下」や、関節付近の筋肉や皮膚などの組織の短縮により、関節の可動域が制限されてしまう「関節拘縮」、不動による骨吸収亢進により続発性骨粗鬆症として「骨萎縮」が生じてしまいます。また、低栄養状態やステロイド治療等、臥床以外にも骨量減少を誘発する要因をもつ者では骨萎縮が進行しやすいとされています。
循環器・呼吸器障害
寝たきり状態が長引くと心肺機能の低下も起きてしまいます。心臓の機能低下により心拍出量の低下とともに立ちくらみ(起立性低血圧)などもみられやすくなります。また、特に下肢を動かさない状態が長引くことで、血栓ができてしまうことがあります(深部静脈血栓症)。
さらに、呼吸に関係する筋肉の筋力低下によって肺活量が低下し、換気量も減少していきます。長期間上半身を起こさないでいることで、嚥下機能が低下し「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こしてしまう可能性もあります。
消化器障害
不動による交感神経系亢進の結果、腸管蠕動運動が低下し、括約筋収縮の増大による栄養吸収率低下から、体重減少、便秘が生じてしまいます。
臥床姿勢による食物の通過時間の延長が食欲低下や食事量減少に影響し、低栄養状態が筋萎縮、骨萎縮を助長してしまいます。
泌尿器障害
不動による骨量の減少と骨吸収の亢進により高Ca血症,高Ca尿症が生じ、尿路結石を生じやすくなります。
膀胱結石があると膀胱粘膜を損傷し、細菌の繁殖により尿路感染を起こし、バルーンカテーテルの留置は、易感染、尿道損傷、結石形成を助長してしまいます。
自律神経・精神障害
身体機能の低下や制限により、生活環境や心理的ストレスなどが引き金となって発症することが多いです。気持ちをふさぎ込むようになり「抑うつ」状態になりやすくなります。気分が落ち込むことで、運動や食事に対する意欲も低下し、さらに身体機能を低下させてしまいます。また、活動量低下により日常生活での刺激が少なくなることで生活のメリハリが乏しくなります。
その結果、認知機能も低下しやすくなったり、睡眠のリズムも保てなくなったり、せん妄や見当識障害などに繋がっていったりするケースも少なくありません。
褥瘡(床ずれ)
特に寝たきりの状態で注意したいのが 褥瘡(じょくそう)で、一般的には「床ずれ」と呼ばれています。
褥瘡は皮膚や筋肉が圧迫され、血流が低下して酸素や栄養が不足することによって生じる皮膚の損傷のことです。褥瘡は、長期間同じ姿勢で過ごすことによって、特に腰、お尻、踵などの部位で発生しやすいです。また、栄養状態の悪化や水分不足が原因にもなります。
褥瘡の予防には、適切な体位変換や圧迫の軽減が必要です。また、食事による栄養補給や適切な水分補給も重要です。

 
【廃用症候群とリハビリ】

廃用症候群は身体を動かさなくなることで少しずつ進行していく症状です。例えば、安静臥床のままでは、初期に約 1~3%/日、10~15%/週の割合で筋力低下がおこり、3~5 週間で約50%に低下すると言われています。
また、運動能力が低下することにより動く意欲が落ち、さらに運動量が減って、身体機能が低下してしまうという悪循環に陥ってしまうケースが多いです。この負の連鎖が続くことで、「寝たきり」になってしまうことになります。
病気になれば安静にしていることが一般的な治療方法になる場合もありますが、廃用症候群が生じてしまう前に病気やケガの状態に合わせた適切な負荷で運動を行うことで廃用性症候群や寝たきりが予防できると考えています。万が一廃用性症候群になってしまった場合は、できるかぎり速やかにリハビリを開始して運動能力をすぐに取り戻す必要があります。
運動能力を取り戻すことにより、動くことへの抵抗感の払拭、関節可動域や筋力の改善、心肺機能の改善、精神的活力の向上などへ繋がってくることが期待できます。
対象者の運動レベルに応じてリハビリプランを組み、運動を行っていきます。
日常生活動作(寝る・起きる・座る・立つ・歩くなど)を安定させるリハビリから外出するための訓練など、身体状態や運動レベルを確認しながら徐々に運動量を確保していきます。
ただ、リハビリを遂行するのではなく、何を目標にリハビリを進めているのかを明確にしながらリハビリを行い、運動への意欲を保つことも必要になります。
廃用症候群に対して運動や精神面でのリハビリだけでなく栄養面での介入も非常に重要になってきます。
廃用症候群を発症された方は低栄養状態になりがちなため、食事による予防法も効果的です。身体を動かす意欲を向上させるためにも主食、主菜、副菜を基本に栄養バランスが整った食事、とくに筋肉の材料になるたんぱく質を豊富に含む食品を摂ると良いとされています。
また、対象者の状態をしっかりと観察し、食欲がない場合は原因を突き止めることが大切です(咀嚼(そしゃく)・嚥下(えんげ)機能低下、食欲不振、消化機能の低下など)。対象者の状態に合わせて、口腔内を清潔に保つ、嚥下訓練をおこなう、十分に水分を補給する、消化しやすい食事に変えるなど対策することが望ましいです。

 
【まとめ】

寝たきりや廃用症候群は予防が肝心です。
「廃用症候群」の認識が世間に広まったことで、現在では入院中も「絶対安静」から「できるだけ体を動かす」という流れになっています。
病態や症状(脳血管疾患や整形疾患など)によって異なりますが、入院直後からリハビリ介入するケースも少なくありません。
廃用症候群を予防するためには当たり前ですが、入院中のリハビリや日常生活の中で積極的に体を動かすことが一番の予防方法です。また、栄養管理も予防方法の一つです。
痛みや体が動かしにくい状態にある場合、その原因を少しでも解消することが廃用症候群を予防する第一歩になります。

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脳卒中の後遺症における歩行障害について

脳卒中の後遺症における歩行障害について

今回のブログでは脳卒中後遺症における歩行障害について、歩行障害の種類や歩行パターンの分類、リハビリについてまとめています。

 
【目次】

●歩行障害とは
●脳卒中と歩行の関係
●脳卒中の後遺症における歩行の特徴と歩行パターン分類
●生活期でのリハビリの重要性
●リハビリベース国分寺での取り組み

 
【歩行障害とは】

歩行障害は、神経・筋肉・骨格系の要因が複合的に作用することにより引き起こされる、歩行機能の障害です。歩行は、脳・脊髄・末梢神経系の信号が綿密に調整されたものであり、その障害は、神経障害、筋骨格系障害、脳血管障害などの様々な病態によって生じます。
「歩く」ためには、ただ単に足の筋肉を使うだけではなく、脳が命令を出し、その命令を伝える神経の働きが必要になります。
そのため、歩行障害の原因には筋肉組織や骨組織そのものの損傷だけでなく、脳組織、神経組織の影響を受けているケースもあります。
また歩行障害は、脚全体が正常に動かせない場合と、膝や足首など特定の部位の動作が不完全で引き起こされる場合とがあり、それぞれのケースに応じてリハビリ内容を考えていく必要があります。
歩行障害には、さまざまな症状がありますが、一般的には歩行速度の低下、歩幅の狭小化、膝や足首の可動域の制限、足の引きずり、バランスの悪化、転倒などが挙げられます。これらの症状は、日常生活において様々な困難を引き起こすことがあります。例えば、家事や買い物、移動や外出などの行動の制限、自己介護の困難、社会参加の制限などが挙げられます。
歩行障害は、症状が進行するとともに、身体機能の低下や社会参加の制限などが生じ、生活の質を低下させることがあります。そのため、リハビリでの機能改善が重要であり、対象者の症状や原因に応じた適切なプランを提供することが必要です。また、患者の生活環境や社会的支援にも配慮しつつ、持続的なリハビリを行うことが大切です。

 
【脳卒中と歩行の関係】

脳卒中を引き起こすと、脳内の血液循環が悪くなり、脳細胞が酸素不足や栄養不足になって死滅することがあります。また、脳細胞が壊死した後には、周囲の神経細胞も障害を受けるため、脳の機能が低下することがあります。
このような脳の障害によって、運動に関する中枢神経系が損傷することがあります。運動には、体幹のバランス感覚や筋肉の調整、協調、制御が必要とされていますが、これらの機能を担う脳部位が障害を受けると、歩行障害が発生すると考えられます。
さらに、脳卒中後には、筋肉や腱、関節などの組織にも損傷が生じることがあります。このような損傷は、筋肉や腱、関節の拘縮や強直、感覚異常、疲労感などを
引き起こすことがあります。例えば、筋肉の拘縮や強直は、筋収縮力の変化や運動の制限を引き起こし、バランス感覚や歩行時の足の置き方、歩行スピードにも影響を与えます。

脳卒中の後遺症に多い歩行障害
痙性歩行
下肢の筋肉が過剰に緊張することで、足首や膝を曲げたまま歩く、あるいは脚を引きずるように歩く、歩く速度が遅くなるなどの特徴が見られます。
はさみ足歩行
筋の痙縮や強直により股関節の内転・内旋力が強くなり、足先が内側に向かって接触するために生じる歩行障害です。
鶏歩
足首の背屈が生じずに底屈してしまうため、歩行時にすり足にならないように足を高く上げ、膝を曲げて歩く歩行障害です。
動揺性歩行
腰や上半身を左右に振りながら歩く、トレンデレンブルグ徴候が一つの例です。
小刻み歩行(パーキンソン歩行)
膝を軽度曲げ、前かがみの姿勢で歩幅が狭くなってしまう歩行障害です。
運動失調性歩行
運動失調性歩行の特徴は、歩行時に左右の足の歩幅が異なる、足を前に出すときにバランスを崩す、歩行中に足がもつれるなどの歩幅の不均一や運動の協調性の低下などが挙げられます。

 
【脳卒中の後遺症における歩行の特徴と歩行パターンの分類】

脳卒中の後遺症は脳血管障害により、随意性低下、異常筋緊張、感覚障害や姿勢調節障害などを呈し、歩容(歩行時の姿勢)や歩行障害の質・程度には個別差が大きいです。
脳卒中の後遺症を全体としてみると歩行速度の低下、麻痺側単脚支持期の短縮、両脚支持期の延長、歩幅の短縮、足関節の可動域制限などが多くみられます。

麻痺側膝関節の動きによる歩行パターン分類
脳卒中の後遺症における歩行障害で膝の動きに着目し、歩行を分類しているものがあります。
Quervainらは麻痺側立脚期の膝関節の動きに着目し、立脚期に膝が過剰に伸展する歩行(extension thrust pattern:膝伸展パターン)や、膝関節が過剰に屈曲する歩行(buckling knee pattern)立脚期に膝関節がほぼ固定されている歩行(stiff knee pattern)に歩行パターンを分類しました。
歩行分析においても「反張膝」や「膝折れ」など脳卒中の後遺症における歩容を膝関節の動きで表現することに加え、上記の歩行パターンは実際のリハビリ現場でも多く見られます。
また、上記のパターンの中で立脚期に膝が過剰に伸展する歩行(extension thrust pattern:膝伸展パターン)は2つに分類されることがあります。
足を地面に接地した直後に膝関節が伸展するパターン「初期膝伸展パターン」立脚中期から立脚後期にかけて膝関節が伸展するパターン「中期膝伸展パターン」の2つに分類されます。
歩行評価をする際にこのような異常歩行パターンを理解することで適切なリハビリにつなげることが出来ます。

 
【生活期でのリハビリの重要性】

リハビリの時期は「急性期」、「回復期」、「生活期」の3つに分けられることが多いです。
今回のブログでは「生活期」に着目してリハビリについてご説明していきます。
『脳卒中治療ガイドライン2015』では回復期リハビリ終了後の慢性期脳卒中の方に対して筋力、体力、歩行能力などを維持・向上させ、社会参加促進、QOL(生活の質)の改善を図ることが強く勧められています。
生活期のリハビリの効果は、リハビリの「質」が重要になってきます。とにかく筋トレ!とにかく練習!というよりも適切なトレーニング方法に基づいてのリハビリプログラムやホームエクササイズを実施することで、身体機能や歩行能力の改善に繋がってくると考えています。
もちろん十分なリハビリ時間を確保することは非常に重要ですが、ただ時間だけを長くするのではなく、リハビリの「質」も確保することで機能改善に大きな影響を与えてくれると考えています。

生活期でのリハビリでは筋緊張に伴う歩行機能障害と歩行システム問題に伴う歩行障害が多くみられます。
入院中はリハビリ時間が必然的に多く確保できるため、身体機能や歩行機能も確保できています。
入院中のリハビリが終了した時点ではさほど目立たなくても、生活期での長い経過に伴い、確保されていた可動域の減少や、残存筋力の低下が出現してしまうことで、知らず知らずに効率を追求してしまいます。麻痺側の残存機能に頼った動作や非麻痺側の過剰努力による動作が繰り返される左右非対称的なパターンが筋緊張亢進に繋がってしまいます。
筋緊張亢進に伴い、歩行周期の乱れや歩行中の各関節の役割(ロッカーファンクションなど)の破綻も生じてしまう可能性があります。
また、左右非対称な歩行パターンを継続することで、繰り返し同部位にストレスが加わることによる疼痛や関節変形、麻痺側の筋力低下などを引き起こします。
生活期においても,集中的な下肢筋力強化や歩行練習は歩行能力を改善させ,発症から長期経過した脳卒中の後遺症の方に,下肢機能練習や筋力強化,機器を用いた歩行練習を行うことで 歩行機能が改善することが様々な研究により明らかになっています。

 
【リハビリベース国分寺での取り組み】

➀痙性に対する介入
適切な評価の元、動作の妨げとなっている部位を徒手的な介入や電気刺激による介入を行い解決していきます。
➁歩行訓練量の確保
麻痺の程度に合わせて、訓練量を十分に確保します。訓練量だけでなく訓練内容にもこだわっています。
各歩行周期に応じたエクササイズやトレーニング方法で改善を図ります。
➂トレッドミルを使用した歩行訓練
安全に配慮し、トレッドミル歩行を行うこともあります。
トレッドミルを使用することにより、歩行距離の延長、歩行スピードの向上、転倒予防へ繋がることが期待できます。
➃積極的に屋外歩行や公共交通機関の練習を行う
ご利用者様の目標(スーパーまでのお買い物、職場復帰、旅行など)に合わせて屋外訓練も積極的に行います。
➄適切な歩行補助具(短下肢装具や杖など)の提案
現在使用している歩行補助具が本当に適切か、リハビリを進めていく上でご利用者様やご家族様と確認しながら歩行補助具による介助量の増減の提案させていただきます。

リハビリベース国分寺では1回の施術時間は90分となっており、リハビリ時間を十分に確保し、その中で「リハビリの質」にもこだわっています。
マンツーマンで身体のケアから運動まで行い、効率よく、そして確実にリハビリ効果を発揮できるようにサポートしています。

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脳出血後に人混みは不安!?

●脳卒中後に人混みは不安!?
●不安な方へのリハビリ
●脳出血後に体力が低下して長時間歩けなくなる原因は!?
●そのリハビリは

脳出血後に人混みは不安!?

脳出血後に人混みを歩くことに不安を感じるのは、脳出血が起きたことによって脳に損傷が生じ、それが不安や恐怖の感情を引き起こすからです。このような状況では、脳が正常に機能しなくなり、身体的にも心理的な影響も生じる可能性があります。具体的には、歩行障害や筋力低下、感情の変化などが見られる場合があります。これらの症状が人混みを歩くことに対する不安を引き起こす原因となるのです。

また、脳出血後には、周囲の刺激に敏感に反応することがあるため、人混みを歩くことが過剰な刺激となってしまっている可能性があります。これは、脳の機能が正常に働かず、情報を処理できないほどの過剰な刺激が脳にストレスを与えている可能性があります。さらに、脳出血後には、自己意識や自信の喪失など、心理的な問題が発生することがあります。人混みを歩くことに対する不安は、このような心理的な問題から引き起こされる場合もあります。自分が他の人と比較したり、不器用な動きをして周囲に迷惑をかけることを恐れるなど、自己評価の低下が原因となることがあります。

以上のような理由から、脳出血後には、人混みを歩くことに対する不安が生じる場合があります。このような場合には、リハビリテーションや心理的な支援など、適切な対処方法を見つけることが大切です。

不安な方へのリハビリ

脳出血後に人混みを歩くことに不安を感じる方には、以下のようなリハビリテーションがあります。

歩行訓練:歩行訓練は、歩行能力を回復させるためのトレーニングです。まずは、歩行器や杖を使って安定した歩行を目指します。その後、段階的に歩行器や杖を外して、自立歩行を目指します。段階的な歩行能力の改善は機能回復を感じることができ、身体機能の向上だけでなく、心理面にも良い効果をもたらします。

認知行動療法:認知行動療法は、不安感や恐怖感を減らすための心理療法です。具体的には、不安を引き起こす思考や行動を変えることで、不安を和らげることが目的です。

感覚統合療法:感覚統合療法は、身体感覚を改善することで、バランス感覚や空間認識を改善するための療法です。この療法を行うことで、人混みを歩くことに対する不安感を軽減することができます。

グループセラピー:グループセラピーは、同じような状況にある人たちと共にセラピーを受けることで、互いに支えあうことができる療法です。これにより、自分だけが不安感を感じているわけではないことを実感し、不安感を和らげることができます。

日常生活場面でのリハビリ:リハビリテーションだけでなく、日常生活での練習も重要です。例えば、散歩や買い物など、人混みに出る機会を積極的に増やすことで、不安感を軽減することができます。リハビリベース国分寺では駅前の施設のため、実際の場面での評価と訓練をすることができます。


上記のようなリハビリテーションを、個々の状況に合わせて実施することで、人混みを歩くことに対する不安感を軽減し、より自信を持って日常生活や社会復帰を支援することができます。ただし、リハビリテーションには個人差があり、継続的なサポートが必要になる場合もあります。

脳出血後に体力が低下して長時間歩けなくなる原因は!?

脳出血後に体力が低下して長時間歩けなくなる原因には、いくつかの要因が考えられます。

●身体的損傷
脳出血によって脳に損傷が生じるため、運動機能に影響が出ることがあります。脳出血が起きた場所によって、身体のどの部位が影響を受けるかが異なりますが、足の筋肉や神経に影響が出ることが多いため、歩行能力が低下することがあります。

●疲労
脳出血後は、回復期間中に疲れやすくなる傾向があります。これは、脳が損傷を受けたことによって、脳が活動するために必要なエネルギーが増えるためです。そのため、通常よりも疲れがたまりやすくなり、長時間歩くことが難しくなることがあります。

●不安やストレス
脳出血後には、不安やストレスが増加することがあります。これは、病気や治療によって生じる身体的な負担や、生活の変化による心理的なストレスによるものです。このような状況では、身体の緊張が高まり、疲れやすくなることがあります。

これらの要因が重なって、脳出血後に体力が低下して長時間歩けなくなることがあります。しかし、適切なリハビリテーションや身体活動を継続することで、身体機能の回復や疲労軽減が期待できます。リハビリの専門家の指導のもと、適切な運動を行い、体力を徐々に回復させることが大切です。

体力UP!そのリハビリは

脳出血後に体力が低下して長時間歩けない患者には、以下のようなリハビリが必要となります。

●歩行訓練
歩行訓練は、脳出血後に歩行能力を回復するための重要なリハビリです。まずは、歩くこと自体に慣れるために、歩行器や杖を使用したり、手すりなどを使用して立位訓練を行ったりします。その後、徐々に歩く距離や時間を増やしていくことで、歩行能力を向上させます。

●筋力トレーニング
脳出血後には、筋肉の萎縮や筋力の低下が生じることがあります。筋力トレーニングを行うことで、筋肉の力を回復させることができます。特に、足の筋肉を鍛えることで、歩行能力の向上につながります。

●有酸素運動

有酸素運動を行うことで、心肺機能を改善することができます。ウォーキングなどの運動を行うことで、体力を回復させることができます。

●バランス訓練

脳出血後には、バランス感覚が低下することがあります。バランス訓練を行うことで、歩行中の転倒リスクを減らし、歩行能力の向上につながります。

●日常生活動作の訓練
日常生活動作の訓練を行うことで、歩行以外の身体活動も行うことができます。例えば、自立歩行や階段の昇降、トイレの使用など、日常生活に必要な動作を練習することで、身体能力を向上させます。

これらのリハビリを継続的に行うことで、脳出血後に体力が低下して長時間歩けない患者の歩行能力を回復させ、生活の質を改善することができます。

【参考文献】


1) 脳卒中治療ガイドライン2015(追補足2019
2) 「Post-stroke emotional and behavioral disorders」
3)Robert Teasell 1, Matthew J Meyerら著「Stroke rehabilitation: an international perspective」2009 Jan-Feb;16(1):44-56.
4)Sandra A Billinger, Ross Arenaら著「Physical Activity and Exercise Recommendations for Stroke Survivors: An American Heart Association Scientific Statement」2014 Aug;45(8):2532-53
5)「Cochrane Review: Physical rehabilitation approaches for the recovery of function and mobility following stroke」
6)「Phobic postural vertigo--a long-term follow-up (5 to 15 years) of 106 patients」

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この記事を書いた人

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地

原嶋崇人 リハビリベース国分寺院長 運動器認定理学療法士

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地域高齢者に対しての介護予防や転倒予防事業の講師などを行っている。

歩行のバイオメカニクス

歩行のバイオメカニクス

歩行は日常生活の中で欠かすことのできない動作です。
何をするにも歩行という動作が必要になってきます。
歩行はエネルギー効率良く移動できる動作といわれており、なぜ効率よく動作ができるのかを今回のブログでまとめています。

 
【目次】

●歩行とは
●効率の良い歩行とは
●倒立振り子運動
●歩行周期
●ロッカー機能
●歩行中の姿勢制御~locomotorとpassenger~
●歩行の評価
●終わりに

 
【歩行とは】

二足での歩行運動はヒトの生活を支える基本的な行動様式です。円滑な歩行運動を実現するためには数多くの筋の協調的な活動が必要とされ、また単に運動出力を発するだけではなく、外部環境に応じた迅速かつ柔軟な調節が重要となります。
つまり日常生活を送るうえで「歩行」は非常に重要な役割を担い、歩行能力が上がることで自宅での移動や外出、社会復帰などへのステップアップに繋がり、生活の質が向上することが期待できます。

 
【効率の良い歩行とは】

効率的な歩行とはどのようなことでしょうか?
ここでお話しする「効率的」とは「エネルギー効率」のことを指します。
要するに歩行するにおいていかに筋力を使わず歩けるかということになります。
物体が移動する際にはエネルギー(外力)が必要になってきます。人体においてその外力とは筋力のことを指します。
しかし、すべてのエネルギーを筋力で補うのは非常に効率的とは言い難いです。

 
【倒立振り子運動】

歩行動作の例として「倒立振り子運動」という理論に基づいてエネルギー効率の話をすることが多くあります。

前述した通り「効率がいい」ということは「エネルギー効率がいい」ということとお話しました。
つまり、地球上にある「重力」を利用して、より少ない外力(筋力)で移動するというのが効率の良い歩行になります。
物理的にいうと、位置エネルギーと運動エネルギーの関係を活用しています。実は、人間の体の構造は、この倒立振り子を利用して効率よくエネルギーを活用できるようにできています。

倒立振り子とは「逆立ちした振り子」のことを指します。
床に支点を固定しており、棒の先端の重りが支点を中心に回転運動を運動をするモデルになります。
身体に置き換えると支点が足、棒が下肢、重りが重心に相当します。
棒(下肢)が垂直にある状態では重り(重心)が最も高い位置にあり、位置エネルギーが最高位にある状態です。
重り(重心)をわずかに前方へ傾けることで、重力により棒(下肢)は支点(足)を中心として回転運動をしながら倒れ、位置エネルギーから運動エネルギーに変わりながら重り(重心)が倒れていきます。
二足歩行では重心が上下動を繰り返し、位置エネルギーと運動エネルギーを交換しながら歩行することで、効率的な運動となります。

 
【歩行周期】

今回のブログでは理学療法士に馴染み深いランチョ・ロス・アミーゴ方式における歩行周期の名称と定義に基づいて説明していきます。
『ランチョ・ロス・アミーゴ方式』とは世界で最も歩行研究に精通した施設である、ロサンゼルスにあるランチョ・ロス・アミーゴ国立リハビリセンター(Rancho Los Amigos National Rehabilitation Center)でドイツの理学療法士のキルステンゲッツ・ノイマンが作成した方式です。

 
歩行の1周期の区分

歩行は2歩を1周期とする繰り返し運動です。1周期の中の各時間帯を「相」あるいは「期」といいます。
片足に着目すると、足が床に着いている期間を「立脚期」、着いていない期間を「遊脚期」といわれており、両足同時に着目すると、両足が床に着いている期間を「両脚支持期」、片足のみが床に着いている期間を「片脚支持期」といいます。
正常歩行では立脚期は1周期の60%、遊脚期は40%となっています。

 
ランチョ・ロス・アミーゴ方式

 
【ロッカー機能】

人間はなぜ前に進むことが出来るのか、不思議に思ったことはありませんか?
そもそも人間の身体重心のベクトルは下方に向かっています。しかし、歩行は前方へ移動する動作です。
その為、下方に向かっているベクトルを前方へ向かわせなければいけません。
そこで重要になってくるのが今から説明する「ロッカー機能」と呼ばれるメカニズムです。
ロッカー機能とは、立脚期の身体がロッキングチェアのように回転しながら前方に移動していく動きです。
回転の中心は踵から足関節、前足部、つま先と徐々に前方に移動していき、これらをそれぞれ踵ロッカー(heelrocker)、足関節ロッカー(anklerocker)、前足部ロッカー(forefootrocker)と呼びます。
それぞれの役割を以下に記載します。
踵ロッカー(heelrocker)
初期接地~荷重応答期までを指します。踵を中心に回転していき徐々に足底が床に接触していきます。踵接地時、身体重心は最高点から一気に最下点に落下します。この時の約2㎝の重心移動が起こるとされていますが、この重心落下の衝撃を吸収できなければ、骨や関節、内臓、脳は大きなダメージを受けることになります。
その為、この時期に活動する筋肉(前脛骨筋や大腿四頭筋、ハムストリングスなど)は遠心性収縮(ブレーキ動作)を行い衝撃を緩和させています。しかしブレーキをかけてしまうと前方へは進めないために踵骨の形状を使い前方へ回転させていくのが踵ロッカーの役割になります。
足関節ロッカー(anklerocker)
荷重応答期~立脚後期までを指します。足関節を中心に前方へ回転していき、重心を前方へ移動していく時期になります。
初期の段階では足首から上の身体を前方へ引き寄せる力が加わり、重心を最高点までもっていきます。そこから踵が離地するまでヒラメ筋で回転速度を調節しながら緩やかに前方へ重心移動を行っていきます。
前足部ロッカー(forefootrocker)
立脚後期~前遊脚期までを指します。足趾の付け根を軸に踵が地面から離れ、前方へ蹴りだしを行う。
この時期は足関節から足趾の付け根へと回転軸が移動していきます。
重心位置は最高点から下降していく時期になります。この時反対側の足は浮いている状態で下肢を前方に振り出していくタイミングです。
重心位置が最高点からどんどん下降してしまうと反対側の振り出しに時間的余裕がなくなり、歩幅の減少に繋がってしまうため前足部ロッカーは回転軸を足趾の付け根を中心とした回転軌道に変えて円軌道を上方へ修正し、重心移動の方向をコントロールする役割になります。
また、この時期では腓腹筋の筋力が非常に重要になり、最大筋力の60~80%もの力が必要と言われています。

 
【歩行中の姿勢制御~lcomotorとpassenger~】

Neumann によると,歩行中,身体は二つの機能的単位である“パッセンジャー(上半身と骨盤)”と“ロコモーター(骨盤と下半身)”に分けられるとしている。

◇ロコモーターユニット
下半身や動作を行う上での骨盤、両下肢のこと、歩行で直接的に関係があるもののことを指します。言葉を直訳すると「loco moter=歩行運動(loco=機関車 moter=エンジン)」です。

◇パッセンジャーユニット
上半身や動作を行う上での体幹、両上肢のこと、歩行で間接的に関係があるもののことを指します。言葉を直訳すると「passenger=荷物」です。

この2つのユニットがうまく相互に影響しあうことで歩行は成り立っているといわれています。つまり、ロコモーターユニットとパッセンジャーユニットの2つのバランスが重要であり、上方にあるパッセンジャー(荷物)がうまくバランスが取れてないと下方のロコモーター(機関車)は過剰に働くため、下肢の筋力を過剰に働かせる必要があり、反対に、ロコモーター(機関車)がうまくバランスがとれていればロコモーター(荷物)は最小限の力で働くので安定した歩行になります。

キルステンゲッツ・ノイマンによると“パッセンジャー”は基本的に自分の姿勢保持にのみ責任をもつ。このため歩行の正常メカニズムは,“ パッセンジャー”への負荷が最小限になれば性能がよいと言える。 “パッセンジャー”は “ロコモーター”によって運ばれる自立した単位でないといけない。そのことによって “パッセンジャー”は、前方への移動に依存することなく上半身や腕(もしくは手)、頭を用いた各種の活動(multi task:重複課題)を行うことができる。と述べています。
※キルステンゲッツ・ノイマン(原著)観察による歩行分析より抜粋

 
【歩行の評価】

歩行への介入は、機能回復を促して歩行の自立度や実用性を最大限に高めることが重要です。
歩行観察や歩行分析を通して、対象者の歩行障害の程度や原因を検証して歩行の自立度や実用性を判定していく必要があります。
また、リハビリの中でいくつかの評価ツールを使用して客観的に歩行能力を評価するケースもあります。例えば5m歩行や10m歩行テストで歩行速度や歩幅などの計測、6分間歩行テストで持久性の評価、移乗能力評価としてTimed Up&Go Test(TUG)などを実施することもあります。
理学療法診療ガイドラインでは10m歩行、Timed Up&Go Test(TUG)、エモリー機能的歩行能力評価(EFAP)が推奨されています。
歩行評価の目的は歩行障害を多面的に評価して問題点を見つけ出すことで適切なリハビリプランを組み、対象者の歩行機能再建を図ることです。

 
【終わりに】

今回のブログでは歩行のバイオメカニクスについて説明してきました。
普段何気なく行っている「歩行」を完成させるにはいくつのも機能が重要になってきます。
理学療法士は「歩行」を細かく診れるプロです!!
様々な歩行パターン、それに対するアプローチ方法やエクササイズ指導。何が原因で歩行障害が起きてるか突き止めて解決することができます。

次回のブログでは『脳卒中の後遺症における歩行障害』についてご説明していきます。

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スポーツ疾患 足関節捻挫について

スポーツ疾患 足関節捻挫について

スポーツ障害で非常に頻度の多い足関節捻挫。
今回のブログでは足関節の機能解剖や捻挫の種類、治癒過程、リハビリについてまとめています。

 
【目次】

●はじめに
●足部・足関節の解剖
●靭帯組織の治癒過程
●足関節捻挫について
●足関節捻挫後のリハビリについて
●リハビリベース国分寺でできること

 
【はじめに】

皆様、これまでケガをしたことありますか?
部活動や体育、趣味活動などスポーツを行う上でケガのリスクは常に身近に存在しています。
そして『ケガ』といっても様々なケガの種類があります。
ケガと聞いて一番に思いつくのは「捻挫」や「骨折」、「打撲」、「突き指」等ではないでしょうか。

スポーツ安全保険の支払い実績をまとめた「スポーツ障害 統計データ集」では次のようにまとめられています。
➀外傷の発生件数
男女ともに小学校高学年が最も多い
➁外傷の発生頻度
男子は小学校高学年、女子は40代が最も多い
➂部位
手・指の突き指(20%)、足関節捻挫(15%)、膝関節の捻挫・靭帯損傷(6%)、脳震盪を含む頭頚部の外傷(10%)
未就学児は頭頚部、小・中学生は手指と足関節、高校生以上の年代では手指、足関節、膝関節の外傷が多く、未就学児~中学生では骨折、高校生以上の年代では捻挫が最も多いという特徴がみられました。
今回のブログでは足関節捻挫についての病態とリハビリ内容をご紹介していきます。

 
【足部・足関節の解剖】

 
【靭帯組織の治癒過程】

炎症期(受傷直後~3日前後)→増殖期(受傷後4日~8週前後)→リモデリング期(受傷後4週~半年前後)
一般的にこのような流れで治癒が進んでいきます。
実際にどの程度回復しているのかはエコー検査やMRIなどで精査することができます。

 
【足関節捻挫について】

足関節捻挫は内反捻挫と外反捻挫の2つに大別されます。
足関節は関節の形状から外反より内反への可動性が大きく、捻挫の中でも内反捻挫が多くなっています。
内反を制動する靭帯は前距腓靭帯や踵腓靭帯であることから足関節捻挫の中でもこの二つは症例数が多いと感じますが、次いで前下脛腓靭帯の損傷も少なくありません。
外反を制動する靭帯は主に三角靭帯になります。

これらの靭帯の中で脛骨と腓骨を結ぶ前下脛腓靭帯損傷は正しく処置・リハビリを行わなければ難治になるケースが少なくありません。
足関節の可動が起こる際、脛腓関節の動きも伴います。背屈時には脛腓関節が開くことで距骨の通り道ができ、底屈時には開いた脛腓関節が元に戻っていきます。
前下脛腓靭帯損傷では急性期に固定を適切な期間することにより靭帯を保護しなければ、足関節運動とともに痛んだ靭帯へのストレスが増大し、靭帯の治癒が遅れてしまいます。
その他の靭帯でも同様のことが言えますが、前下脛腓靭帯損傷においてはただ荷重しただけでも負担がかかるため、急性期には適切な期間固定を行うことが望ましいです。
捻挫によりどこの靭帯をどの程度損傷したかによっても治療やリハビリ方法が変わってくるので適切な診断が非常に重要となります。

 
【足関節捻挫後のリハビリについて】

〇急性期(受傷~3日)

急性期ではRICE処置と関節の保護が重要です。
微弱電流治療器を使用して治癒促進を促していくのも非常に有効です。
受傷してから72時間は患部からの出血が多いとされている時期なので圧迫やアイシングを行い、出血を最小限に抑えることがポイントです。
損傷度合いや炎症状態、痛みに応じてシーネ固定やサポーター等で関節を保護し、損傷靭帯へのストレス軽減を図ります。
ただの捻挫だからと言って初期の対応を怠ってしまうと、その後の生活やスポーツ活動に影響を及ぼしてしまうケースもあります。

〇亜急性期(受傷後4日~4週前後)

この時期は日常生活動作の安定を目指していきます。
安定した歩行、階段昇降など痛みがなくこなせるようにリハビリしていきます。
可動域獲得や筋力強化に関してはまずは、非荷重位で行えるものを選択し、靭帯の治癒状況等に応じて徐々に負荷を上げていきます。
簡単なバランストレーニングも導入していきます。

〇回復期~競技復帰(受傷後4週以降)

この時期では可動域や筋力の左右差を無くすこと、バランス機能を安定させることが目標になってきます。その為、競技復帰を見据えてより強度を上げたトレーニングを行っていきます。それぞれの競技特性に合わせたトレーニング内容を選択し、スムーズに復帰していけるようにしていきます。
復帰後の再受傷予防のためのコンディショニングやトレーニング方法の確認も重要です。

 
【リハビリベース国分寺でできること】

捻挫後の競技復帰までのリハビリはもちろん、捻挫後の慢性的な痛みや、足関節不安定症に対するリハビリも実施しております。
「たかが捻挫」と考えているとのちに大きなケガへつながる危険性もあります。
楽しくそして熱くスポーツ活動をするためにリハビリベース国分寺でトレーニングしていきましょう!!

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脳卒中の後遺症による体幹への影響

脳卒中の後遺症による体幹への影響

今回のブログでは脳卒中の後遺症による体幹への影響について記載しています。
体幹の基本的な機能や脳の領域のお話、日常生活動作への影響、簡単なエクササイズ紹介まで盛りだくさんの内容になっています。
是非、最後までご覧ください。

 
【目次】

●脳卒中とは
●体幹とは
●体幹の役割
●脳卒中と体幹機能
●脳卒中の後遺症による体幹への影響
●体幹機能と日常生活動作との関係について
●エクササイズ紹介
●リハビリベース国分寺でできること

 
【脳卒中とは】

脳卒中とは脳血管の狭窄や破裂などが原因で、脳への血流の流れが止まることによって起こる病気です。
脳卒中は、脳梗塞と脳出血の2種類に大別されます。
脳卒中の種類についてはこちらのブログをご参照ください。→【脳血管リハビリテーション】

 
【体幹とは】

体幹とはその文字が示す通り、「体の幹」ということです。
体の幹なので頭部と上・下肢を除いた胴体部分になります。具体的には胸、背部、腰部、腹部、骨盤周囲はすべて体幹の構成要素ということになります。
体幹を構成する関節や筋肉が協調的に動くことで身体の安定性や姿勢制御、運動制御、体の回旋や前後屈、側屈動作の制御などを担います。

 
【体幹の役割】

体幹は、人体の重心を支え、姿勢を維持するために非常に重要な役割を果たしています。
体幹の主な役割としては筋緊張と脊柱のダイナミックスタビライゼーション(体幹の深層筋が軸を安定させながら表在の大きな筋や末梢の動きを先導する活動)を調節して四肢の機能をコントロールすることです。
また、上下肢を動かす際に体幹の深層にある腹横筋が最初に働くといわれています(先行随意性姿勢調節)。体幹機能不全が起きることにより、軸は不安定になり上下肢がスムーズに動かしづらくなることが予想できます。
また、体幹は、身体のバランスや姿勢を維持するだけでなく、運動や呼吸、内臓の保護など、多くの重要な役割を果たしています。

 
【脳卒中と体幹機能】

脳卒中を引き起こすと、障害された脳とは反対側の半身に運動麻痺が生じます。麻痺した側を「麻痺側」、麻痺していない側を「非麻痺側」と呼びます。
体幹の運動や姿勢制御には、脳の様々な領域が関与しています。特に、体幹の運動制御には、大脳皮質、小脳、基底核、脊髄などの領域が重要な役割を果たしています。
人の運動制御には大きく分けて外側下行路系と内側下行路系が関与するとされています。(図1)
内側下行路系(網様体脊髄路、前皮質脊髄路、前庭脊髄路)は主に姿勢調節や歩行能力に必要な体幹筋や四肢の近位筋の制御を行っています。その他、起立動作や平行機能・筋緊張の制御にも働いています。
内側下行路系は、大脳皮質から脊髄に向かう神経線維のうち、体幹や下肢の運動制御に関与するものを指します。内側下行路系には、大脳皮質から始まり、脊髄に至る3つの主要な神経線維束があります。
まず、錐体路は大脳皮質の運動野から発し、下行路の中で最も重要な神経線維束の1つです。錐体路は、細かい動作や精密な運動制御に関与し、体幹や四肢の運動を制御します。
次に、脊髄小脳路は脊髄小脳性運動失調症と呼ばれる疾患に関連する神経線維束の1つです。脊髄小脳路は、大脳皮質から始まり小脳を経由して脊髄に至るルートを持ちます。この神経線維束は、体幹の運動制御に関与し運動の正確性やバランスを維持するために重要な役割を果たします。
最後に、網様体脊髄路は興奮性神経細胞である網様体から脊髄に向かう神経線維束です。網様体脊髄路は、姿勢制御やバランス維持に関与し、反射的な運動制御にも重要な役割を果たします。
このように内側下行路系は、体幹や下肢の運動制御に重要な役割を果たしています。これらの神経線維束が正常に機能しない場合、運動失調や筋力低下、姿勢の不安定などが生じることがあります。

 
【脳卒中の後遺症による体幹への影響】

脳卒中を発症することにより、体幹の筋肉や感覚が麻痺したり、動作が制限されたりすることがあります。脳卒中が体幹に影響を与える場合、体幹の一部の運動や感覚が麻痺したり、失われたりすることがあります。また、体幹が弱くなることで、バランスや姿勢の制御が難しくなり、倒れやすくなることもあります。適切なリハビリテーションや支援を受けて、体幹機能を回復することが重要です。
これから体幹機能についてや脳卒中後遺症で体幹機能が低下してしまうことにより日常生活へどのような支障が出ていくのか説明していきます。

 
【体幹機能と日常生活動作との関係について】

脳卒中を発症された方の日常生活動作には多くの要素が影響しあっています。身体機能としては、運動麻痺、高次脳機能障害、感覚障害、バランス障害などが挙げられます。
身体機能の中では、体幹機能の関与も大きく、Verhrydenは、脳卒中後に体幹パフォーマンスが低下すること、また体幹パフォーマンスがバランス、歩行、機能的活動の評価と強く関連しており、体幹への評価・介入の重要性を述べています。また、Daviesは、上肢機能、歩行、バランス能力の改善には体幹機能の改善が必要であることを述べています。
体幹は、身体の中心部分であり、姿勢の制御や身体バランスを保つために非常に重要な役割を果たしています。例えば、安定した立ち座りや歩行(特に路面の凹凸や段差など、足元が不安定な状況では、体幹の筋肉の働きが重要)の獲得に重要となります。体幹機能を改善させることで、正しい姿勢を保つことができ、姿勢が崩れたり、腰痛や他関節の機能障害の原因になるリスクを減らすことが出来ます。

上記で述べたように、脳卒中による体幹の障害は日上生活動作に大きな影響を与えることがあります。例えば、脳卒中によって体幹機能が麻痺した場合、次のような日常生活動作に支障をきたすことがあります。
1.立ち上がりや歩行
体幹が弱くなることで、立ち上がりや歩行が困難になることがあります。また、体幹の筋力が弱まることで、歩行中にバランスを失いやすくなるため、転倒やケガのリスクが高くなります。
2.着替えや入浴
体幹の筋肉が麻痺すると、着替えや入浴などの自己介助が困難になることがあります。例えば、体幹が弱いと上半身を起こして服を着ることが出来なかったり、入浴中にバランス崩して転倒するリスクが高くなります。
3.生活習慣の乱れ
脳卒中による体幹の障害は、身体のバランスや姿勢制御に関する機能の低下を引き起こすため、生活習慣病などの病気のリスクを高めることがあります。また、脳卒中の後遺症による強い疼痛や感覚異常がある場合、運動機能を低下させることもあります。
4.呼吸・嚥下機能の低下
体幹の筋肉が麻痺することで、呼吸や嚥下などの基本的な身体機能にも影響が出ることがあります。脳卒中後に起こる肺炎や食道炎などの合併症のリスクも高まるため、生活習慣の改善が必要です。
5.精神的な影響
脳卒中による体幹の障害は、患者の精神的な側面にも大きな影響を与えることがあります。例えば、家族と一緒に生活している場合、自分で日常生活動作を行えないことによって、自尊心の喪失や、抑うつ症状などが生じることがあります。
以上のように、脳卒中による体幹の障害は、日常生活動作に大きな影響を与えることがあり
ます。リハビリテーションによる適切な治療や運動療法を行うことで、体幹機能の回復や改
善を目指し、日常生活の遂行能力の向上を図ることが大切です。

 
【リハビリベース国分寺でできること】

リハビリベース国分寺ではご利用者様の身体機能を細かく評価し、一人ひとりにあったリハビリプランをご提供させていただいております。
基本動作の獲得はもちろん動作改善への介入、ステップアップへのサポート、職場復帰やスポーツ復帰のサポートも行っております。
ベッド上でのリハビリだけでなく、適切な負荷でたくさん運動をしていただくことで脳や筋を賦活し、身体機能向上へ繋げていきます。
「現状の身体状況の評価をして欲しい」、「このままでは仕事に復帰できないかも」、「もっと高いレベルでのリハビリがしたい」、「子供や孫の結婚式に出席したい」などなどこのような想いを抱える皆様の目標に向かってサポートしていきます!!
是非、リハビリベース国分寺で一緒に頑張っていきませんか?
体験リハビリや施設見学、ご相談等お待ちしております。

 
【参考文献】

・鈴木俊明.脳卒中運動学.運動と医学の出版社.2021
・江連亜弥.原田慎一.他.脳卒中片麻痺患者の体幹機能と日常生活活動(ADL)との関係について.理学療法科学 第25巻1号.2009
・相澤純也.クリニカルリーズニングで神経系の理学療法に強くなる!.羊土社.2017

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手足のつっぱり【痙縮】について

手足のつっぱり【痙縮】について

はじめに

手足のつっぱり【痙縮】は筋緊張異常であり、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)の後遺症で悩んでいる方は多いと思います。
今回【痙縮】について簡単な概要から原因、日常生活の制限、リハビリについてまとめました。

目次

●痙縮患者数
●筋緊張と筋緊張異常
●痙縮とは
●痙縮による日常生活の制限
●痙縮の治療とリハビリ
●筋緊張亢進によるリハビリと予防

目次

●痙縮患者数
●筋緊張と筋緊張異常
●痙縮とは
●痙縮による日常生活の制限
●痙縮の治療とリハビリ
●筋緊張亢進によるリハビリと予防

痙縮の患者数

2020(令和2)年の脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)の患者数は174.2万人(男性約94万人・女性80万人)と報告されています。その中で、多くの方が手足のつっぱり【痙縮】を経験されています。また、そのうち重度痙縮患者は7%弱という海外の調査報告から、国内にも10万人以上と推察されます。

筋緊張と筋緊張異常

通常、私たちの筋肉は安静時に一定の緊張を保っています。これらは筋トーヌスあるいは筋緊張と呼ばれ、活動するための準備状態です。運動制御や姿勢保持にとっても重要な役割を果たしています。筋緊張は一般的に体の力を十分に抜いた状態で他動的に動かして判断します。筋緊張の成因として①筋肉が伸ばされたことにより引き起こされた反射性の収縮(伸張反射)、②筋自体に備わっている粘弾性の2つが機序と考えられています。
筋緊張の異常には筋緊張低下と筋緊張亢進があり、亢進には痙縮と固縮、ジストニアがあります。また、臨床的には痙縮と固縮の中間に強剛固縮という状態も存在します。
脳卒中では脳の障害部位やその程度、あるいは発症からの経過や病態の管理方法などにより、いずれの筋緊張異常も認められますが、脳卒中片麻痺患者のリハビリテーションでは筋緊張亢進、特に痙縮の治療・コントロールが重要です。

痙縮とは

痙縮は1980年のLanceの報告で「中枢神経疾患によって起きる、緊張性伸張反射(筋緊張)の速度依存性の亢進の結果生じる上位運動性ニューロン症候群の一徴候」と定義されています。また、これまでは錐体路障害によって引き起こされると考えられていましたが、近年では「錐体路だけでなく、錐体路以外の運動神経も同時に障害されて症状を呈する」という概念が一般的になってきました。そのため、鈴木らによると痙縮の要因を大きく分けると

 ①中枢神経系からの促進性下行運動路の影響
 ②中枢神経系からの抑制性下行運動の影響
 ③求心性抹消神経の影響
 ④遠心性抹消神経の影響
 ⑤筋・腱の機能変化の影響

という5つに分類しています。また、5つにプラスして精神状態や環境要因も含めた包括的な視点を持つ必要があります。

痙縮による日常生活の制限

脳血管疾患の後遺症の中でも多い痙縮ですが、人によって程度はさまざまであり、「手足がつっぱる」以外にも「手足がうまく動かせない・こわばる」「踵がつかない」「手が開かない」「肘が伸びない」などといった訴えをされる方もいらっしゃいます。このような身体の状態から、弛緩性の筋緊張ならまだしも、筋緊張が亢進し、リラクゼーションを取らないまま過剰な努力性運動を行い続けてしまうと、筋肉だけでなく関節が固くなり、日常生活に大きな影響を及ぼしてしまいます。以下に代表的な日常生活の制限についてまとめてみました。
 皆様は当てはまるものはないでしょうか。また、ご家族やご友人に同じようなお悩みの方はいらっしゃいませんでしょうか。
・肘関節の屈曲拘縮
肘が伸びないことで、洋服の脱ぎ着が大変。物を取りたいと思っても腕が伸びてくれない。歩いていると麻痺側の肘が電柱やすれ違う人にぶつかってしまうなど
・手指の屈曲拘縮
手が握ったまま伸びてくれない。手が洗えない。爪を切るのが大変など
・はさみ足
足が内側に入ってしまい、ズボンや下着の着脱が大変。歩いていても足が内側に入り不安定で怖いなど
・内反尖足
立っても踵が付かない。足が捻じれてしまい転びやすくなった。歩き方が不安定など
・肘の屈曲拘縮
肘が伸びないことで、洋服の脱ぎ着が大変。物を取りたいと思っても腕が伸びてくれない。歩いていると麻痺側の肘が電柱やすれ違う人にぶつかってしまうなど
・手指の屈曲拘縮
手が握ったまま伸びてくれない。手が洗えない。爪を切るのが大変など
・はさみ足
足が内側に入ってしまい、ズボンや下着の着脱が大変。歩いていても足が内側に入り不安定で怖いなど
・内反尖足
立っても踵が付かない。足が捻じれてしまい転びやすくなった。歩き方が不安定など

痙縮の治療とリハビリ

痙縮の治療にはいくつかの方法がありますが、いずれの治療を行う場合でも生活指導やリハビリとの併用は必須であります。
① 抗痙縮薬
中枢性または末梢性筋弛緩薬が初期治療として選択されることが多い。
② ボツリヌス毒素治療
2010年に上下肢痙縮に対しての適応が拡大し、国内でも多く行われている。効果は投与数日後から出現し、約2週間で効果が安定する。3-6か月程度効果があるとされている。
③ バクロフェン髄腔内投与(ITB)
③ バクロフェン髄腔内投与(ITB):脊髄内の受容体に直接作用し、筋緊張を軽減させる。既存の治療で効果が不十分な重度の痙縮に対して適応である。
④ 手術療法(整形外科的手術)
アキレス腱延長術や後脛骨筋腱移行術などにより、内反尖足や足趾変形などを直接矯正する。術前に歩行訓練が行えていることが必要条件となる。
上記の方法以外にもありますが、お近くの病院やクリニックにご相談ください。


また、痙縮に対する脳卒中ガイドラインも参考にしてください。
片麻痺の痙縮に対して、チザニジン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンナトリウム、トルペリゾンの処方を考慮することが強く勧められる(グレードA)。顕著な痙縮に対しては、バクロフェンの髄注が勧められる(グレードB)。
上下肢の痙縮に対し、ボツリヌス療法が強く勧められる(グレードA)。フェノール、エチルアルコールによる運動点あるいは神経ブロックが勧められる(グレードB)。
痙縮に対し、高頻度の経皮的電気刺激(TENS)を施行することが勧められる(グレードB)。
慢性期片麻痺患者の痙縮に対するストレッチ、関節可動域訓練が勧められる(グレードB)。
麻痺側上肢の痙縮に対し、痙縮筋を新調位に保持する装具の装着または機能的電気刺激(FES)付き装具を考慮してもよい(グレードC)。
痙縮筋に対する冷却または温熱の使用を考慮してもよい(グレードC)。

筋緊張亢進に対するリハビリと予防

筋緊張亢進は、筋肉が過度に緊張している状態であり、痛みや運動制限を引き起こす可能性があります。以下は、筋緊張亢進に対するリハビリと予防方法のいくつかです。
リハビリ方法
内容
ストレッチング
筋緊張亢進を改善するために、ストレッチングは重要な方法の1つです。適切なストレッチング方法により、筋肉の柔軟性を向上させ、筋緊張亢進を減らすことができます。
筋力トレーニング
筋力トレーニングは、筋肉のバランスを改善し、筋肉を強化するための有効な方法です。特定の筋肉が弱くなると、周りの筋肉が過度に緊張してしまうため、筋力トレーニングは筋緊張亢進の予防にも役立ちます。
マッサージ
筋肉のマッサージは、筋緊張亢進を緩和するために有効な方法の1つです。マッサージにより、筋肉の血流が改善され、筋緊張が緩和されることがあります。
予防方法
内容
良好な姿勢
正しい姿勢を維持することは、筋肉の緊張を減らすために重要です。長時間同じ姿勢を保つことは、筋肉に過度の負荷をかけるため、適度な休憩を取ることが大切です。
適度な運動
運動は筋肉を強化し、筋肉の柔軟性を向上させるために重要です。筋肉を維持し、筋肉の弱点を改善するために、定期的に運動をすることが良いでしょう。
ストレスの管理
ストレスは、筋緊張亢進を引き起こす可能性があります。ストレスの原因を特定し、ストレスを減らすための適切な方法を見つけることが重要です。
以上が、筋緊張亢進に対するリハビリと予防方法です。ただし、個人の状況に応じて、適切な治療法を選択するがあります。

リハビリベース国分寺

リハビリベース国分寺では様々な方法を用いて痙縮に対してのアプローチも行っています。前述したようにマネジメントのための生活指導やリハビリは必須になります。薬などの効果がしっかりと継続するためには関節が固くならないようにストレッチや電気刺激、動きやすい状態での日常生活動作の練習などのリハビリが必要になってきます。
 まずは、リハビリベース国分寺で90分の体験リハビリをしてみませんか。是非、リハビリの効果を感じていただき、機能改善のお手伝いをさせてください。

【参考・引用文献】

1) 厚生労働省:令和2年(2020)患者調査の概況
2)潮見泰蔵:脳卒中に対する標準的理学療法介入-何を考え,どう進めるか?,文光堂,2007
3)鈴木俊明・谷万喜子・他:脳血管障害片麻痺患者の痙縮と連合反応,関西理学 1:35-41,2001
4)笠原隆・正門由久:脳卒中後痙縮のマネジメントと治療,Jan J Rehabili Med 2018:55:448-452
5)近畿大学医学部 脳神経外科:痙縮・難治性疼痛

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原嶋崇人 リハビリベース国分寺院長 運動器認定理学療法士
小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地域高齢者に対しての介護予防や転倒予防事業の講師などを行っている。

この記事を書いた人

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地

原嶋崇人 リハビリベース国分寺院長 運動器認定理学療法士

小児から高齢者、俳優からスポーツ選手のリハビリを経験。ラグビーワールドカップ2019のスポーツマッサージセラピスト、TOKYO2020大会の医療スタッフとして派遣経験あり。スポーツ現場へのサポート、地域高齢者に対しての介護予防や転倒予防事業の講師などを行っている。