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脳血管リハビリテーション④(小脳)

脳血管リハビリテーション④(小脳)

今回は、脳血管リハビリテーションの続編、小脳に関しての働き、または小脳出血後遺症の特徴と、アプローチ方法に関して話していきます。
小脳は、前回の脳血管リハビリテーション③で述べた脳幹の後ろに位置しています。
脳幹(中脳、橋、延髄)に隣接しており、それぞれ小脳と協同して働く連絡通路が存在します。
小脳は、大脳小脳、脊髄小脳、前庭小脳に区分されています。発生学的に、古い順番から古小脳(前庭小脳)、旧小脳(脊髄小脳)、新小脳(大脳小脳)という呼称もあります。
脊髄小脳は、虫部と中間部に分かれます。大脳小脳は、脊髄小脳の外側の部位を指します。
前庭小脳は、一番下に位置しています。MRI画像でも、小脳は、脳幹の橋、延髄レベルの横断面にて確認できます。橋上部で上小脳脚、橋中部で中小脳脚、延髄上部で下小脳脚と呼ばれる、脳幹と小脳を結ぶ経路があります。

小脳の位置、構造

図1:大脳と脳幹、小脳の位置

小脳の役割

小脳の代表的な働きとして、「協調運動」が挙げられます。
協調運動とは、相互に調整を保ちながら、複数の筋によって滑らか、かつ正確に運動することを言います。随意運動に関しては、脳血管リハビリテーション②で説明した、意思によって身体を動かすことを指します。
この随意運動の中でも、動きを協調的に生み出している経路の一つとして、小脳は大きな役割を担っています。協調運動の代表的な検査として、図2の指鼻指試験があります。これは、自分の鼻と、相手の指や一点の標的に対して、指を往復させることで、動作の滑らかさと、標的に対して正確に到達しているかを、検査します。協調性が失われると、手のリーチがぎこちなくなる、標的に対し、大きくズレが生じてしまうといったことが見られます。日常生活では、水が入ったコップを掴み、口に運ぶ。物を棚の上に置く。脚に関して言えば、階段を円滑に登り降りができるといった動作も、協調運動が必要です。
より細かく見てみると、小脳の働きは、先ほどの小脳の区分にあったように大脳小脳、脊髄小脳、前庭小脳の3つに分けられます1)
一つ目に、大脳小脳は、視床と橋を経由し、大脳に行く運動指令を、小脳にてコントロールしています。
次に脊髄小脳は、虫部と半球中間部からなり、体性感覚を統合し、脳幹へ伝達しています。また、小脳虫部は体幹の制御を、中間部は上下肢の制御を行っています。
三つ目の前庭小脳は、耳でとられたバランス等の情報を、脳幹の前庭神経核という部分に情報伝達しています。脳血管リハビリテーション③でも述べた耳の前庭感覚によるバランス情報も、小脳を経由し脳幹に集められています。外部からの情報は、視覚や体性感覚、前庭覚が、それぞれの受容器から情報入力されますが、それらの情報が脳の中心部に向かう経路や、情報を統合してまた身体へ送り出す経路は、たくさんあります。
失われた障害経路を特定し、得られやすい、または効果的な方法をリハビリの中で探っていくのも、一つの大事な行程になります。
図2:指鼻指試験
図3:小脳の解剖

小脳性運動失調

小脳の部位と働き、また脳幹や大脳との関係性を理解したところで、次に小脳の脳卒中で引き起こされる、後遺症に関して述べていきます。
小脳の代表的な特徴である協調運動に関して述べましたが、特に脊髄小脳の役割である、筋緊張の調整は、リハビリを進めていく上で非常に大切な機能になります。脳卒中では、運動神経の経路が絶たれ、片麻痺の状態になるこが、非常に多いケースとしてあります。小脳に関しても、片側での麻痺が出るケースもありますが、随意性、筋出力は良好なことがあります。筋力は発揮でき身体は動かすことができるが、上手く調整して動かすことができないといった特徴が、小脳の後遺症にあります。この協調性のように、四肢や体幹の運動調整が失われることを「失調」と言います。特に脊髄小脳では、脳出血や脳梗塞による侵襲部位により、体幹や上下肢のどこに強く失調の症状が出るか、ある程度定まってきます。
小脳性運動失調の特徴のもう一つとして、眼球運動や視覚的な情報が、失われやすいです。
これは、前庭小脳が、平衡や眼球運動を担っているため、眼球運動が直接的に障害されることもあれば、姿勢制御の中で協調運動が上手く行えずに、周囲へ向きづらくなるといった理由もあります。人は、無意識下、または予測的にバランスを保っていますが、小脳性運動失調がある場合は、身体が上手くコントールできずに”固定的”になってしまいます。固定的という現象は、具体的に一つ一つの筋肉が”選択的”に働かずに、粗大な筋肉を緊張させて姿勢をとるという現象です。
小脳性運動失調に特徴的な姿勢としては、腰や背中から頸部まで、一直線に固定される。身体を捻る回旋の動きや方向転換など、細かい動きが必要な動作に対して、非常に弱いとこも特徴の一つです。また頸部が固定的になることから、頭を回旋して周りを見回すような動きもしづらく、眼球運動の動かしやすさを阻害する悪循環が存在します。頸部から頭部の動き、または眼球運動は、関係性が強く、姿勢筋緊張に対しても、眼球運動への影響は大きい報告されています2)
前回の脳血管リハビリテーション③では、バランスの中で視覚の重要性を述べましたが、小脳の姿勢制御と、視覚的なバランス保持は、小脳性運動失調に対してのリハビリに、必要不可欠です。

小脳性運動失調に対してのリハビリ

一様に小脳の後遺症に対してのリハビリは、これが必要とは言いきれません。
脳出血によっては、小脳とまたがり脳幹の一部で侵襲が起こり、片麻痺を呈する場合もあります。まずは、脳画像により侵襲部位を確認することや、身体の症状として、随意性や協調性運動、痺れや感覚の検査を行い、障害部位を具体化していきます。それから、立ち上がりや立った姿勢、バランスの状態や、移乗などのステップ動作、歩行を観察し、総合的に評価していきます。
先程述べた、小脳性運動失調に対しては、失調部位を明らかにしてから、協調性の向上を図る動作も行いますが、個々の細かい筋肉を選択的に使う、そして強化するという行程を踏んでいきます。具体的には、寝返りや四つ這い運動、起立からリーチ動作など、体幹や四肢をより選択的に細かく動かすことで、失調に対し協調性を育んでいきます。座った姿勢や、立った姿勢に対しては、失調により上手くバランスが保てないことに対し、鏡を使用した視覚的情報による代償や、裸足で足底からの感覚を掴みやすくするなど、より本人に効果的に働く感覚入力を行っていきます。
脳血管リハビリテーション②で述べた、障害部位に対して、残存機能を上手く利用していくことは、最終的に障害部位を改善させることにつながります。最後に、リハビリの中でも一番の量を取りたい動作は、歩行になります。歩行が生み出されるプロセスとしても、小脳は、小脳歩行誘発野と呼ばれる、歩行リズムの生成を担っており3)、無意識下での姿勢制御や、歩行での選択的な活動を総じて上向かせることができます。注意点としては、固定的な姿勢ではなく、より良い歩行の中で、量を生み出していくことが大切です。
質と量を重ねることで、効果的な学習効果をえることが出来ます。中には、歩行の不安定さが強く、歩行器や手すりを使用して、一時的な期間、日常生活を送ってもらうケースもあります。本来では、支持物はなく歩行改善を目指していきたいところですが、転倒のリスクや1人で行える環境も考慮し、歩行器を使用して歩行量を増やしていく手段も、最終的な目標達成には必要です。

その他の小脳の疾患

脳血管疾患の区分からは、逸脱しますが、小脳部位の障害は、疾患として他にも存在します。機能としては、小脳が障害されることで、起こりうる障害の特徴は共通点がありますが、リハビリの方向性や、アプローチ方法はまた変わってきます。
小脳障害が起こる代表的な疾患として、脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration :SCD)、多系統萎縮症(Multiple system atrophy: MSA)、フリードライヒ失調症(Friedreich’s Ataxia: FA)、多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)があります。
どの疾患も難病指定されており、小脳の機能を多く障害される疾患です。代表的な脊髄小脳変性症(以下SCD)は、推定で日本に約3万以上いると言われており、10万人あたり10~20人の割合でいます3)。SCDは、遺伝性は30~40%、孤発性(遺伝ではない)は60~70%と、家族の中で遺伝的に発症することは、突然の発症と比較し少ないです。家族歴を確認し、遺伝性か孤発性によるものかで、医師による治療方針は大きく変わってきますし、リハビリの方向性としても、アプローチが変わってきます。
遺伝性SCDは、疾患の判別が可能で、SCDの中でも分類として、純粋SCD型と多系統障害型があり、発症時期や症状、予後も異なってきます。共通して言える特徴としては、歩行でフラつく、呂律が回らない、書字が乱れるといった症状が見られます。他には、小脳に2次的障害を与える疾患として、腫瘍や外傷、脳血管疾患、感染症、代謝障害があげられます。

リハビリベース国分寺のアプローチ

今回は、小脳の働きから後遺症、またリハビリ内容に関して話させてもらいましたが、
リハビリベース国分寺での特徴的な取り組みに関しても、述べていきます。小脳の後遺症
をお持ちの方も様々で、車椅子から立つのに介助が必要な方もいれば、室内は伝いで歩く
ことができるが、外はこわくて歩行器が必要など、行える動作や活動範囲は異なります。
異なる後遺症の度合いの中でも、リハビリを共通して行うことは、起き上がりや立ち上が
りなど、基礎的な動作の中で、協調的に運動が正しい動作で行われているかを、初めは重
点的に行っていきます。どんな難易度の動作も、基礎的な動作から誤った動作が学習され
ると、応用的な場面でバランスが上手く取れない、次への動作に移行しづらくなる場合が
あります。ある程度、協調的なバランスが取れるようになると、次は視覚情報を少しずつ
減らしながらのバランス訓練を行っていきます。始めは、バランスをとるのに精一杯で、
足元を注視する傾向ですが、屋外での活動には、周りを見渡しながら歩くといった応用的
な動作も必要なため、視覚情報を減らしたバランス訓練も重点的に行っていきます。リハ
ビリ動作の難易度調整を細かく行っていくことで、段階的に目標に近づいていきます。通
われているリハビリ時間以外にも、自宅生活にて可能な限り活動量をとってもらいます。
ご家族の手が不足していれば、他サービスとの連携も図りながら、リハビリで得た身体機
能を、活動へ出来るだけ多く活かす取り組みをしていきます。日に日にリハビリ効果が出
て、できる活動が増えることも、本人にとって強い励みと、リハビリの大きな原動力にな
ってきます。
リハビリベース国分寺で通われている、脳血管疾患の方々は、麻痺による障害も様々で
、発症してからリハビリを受ける時期も様々です。発症後から、急性期病院にて全身状態
が安定した後に、リハビリ目的で回復期病院へ入院する方もいれば、自宅生活を選択し、
リハビリを通って受けられる方もいます。リハビリベース国分寺の一番の特徴として、ど
の時期においてもリハビリが受けられます。また回復期から維持期まで、リハビリにより

効果を出すことができます。脳血管リハビリテーション①でも述べたように、回復期を脱
した維持期、脳梗塞を発症した6ヶ月以降、1年、5年、10年経過した方でも、適切なリハ
ビリをすることで、身体機能と動作を改善できる部分があります。通って頂いているご利
用者の中には、回復期を終えた後も、もう少し集中的にリハビリを続けたい、身体を改善
させたいという強い気持ちを持たれている方が多いです。また、脳梗塞後、5年、10年と
経過し、最近上手く歩けなくなってきた、麻痺の緊張が高く出来ないことが増えた、とい
う方も短期集中にて、改善を図ることで、元の生活、またはより希望に沿った生活を獲得
される方がいます。ですが、麻痺の状態により、全てを改善されることは難しいです。リ
ハビリベース国分寺では、リハビリを開始する前に、体験を設けており、理学療法士によ
る客観的な評価を行っていきます。そしてご利用者や、ご家族の今後の希望と照らし合わ
せ、具体的なリハビリが必要なところ、または目標に対しての到達できる地点を、客観的
にお伝えし、ご納得頂いてから本契約頂いています。100%、身体機能が改善することは難しいですが、初回体
験にて改善できる部分、リハビリによって到達できる予後を、具体的な期間を持って、説
明させてもらいます。脳血管疾患の具体的なリハビリの過程は、リハビリ事例として挙げ
ているので、ご参照下さい。(50代脳梗塞後遺症)

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この記事を書いた人

尾作研太 理学療法士

回復期病院にて4年間勤務、主に整形外科や脳血管疾患、脊髄損傷のリハビリに従事。海外の大学にて、ヘルスケアの学位を取得後、訪問リハビリと地域の介護予防に参画。脳血管疾患の方の動作獲得や、装具を含めた歩行の修正、社会復帰までサポートしている。