廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群による循環器系・呼吸器系への影響

廃用症候群は関節拘縮、筋萎縮(筋力低下)、骨萎縮(骨粗鬆症)など運動器系の変化のみでなく、起立性低血圧、深部静脈血栓症、消化管運動の低下、認知機能低下など循環器や消化器、精神機能など多岐にわたる器官の機能低下が生じます。
今回のブログでは廃用症候群により循環器系や消化器系へどのような症状が出てしまうのかまとめています。

 
【目次】

●循環器系への影響
  ➀運動耐容能低下
  ➁起立性低血圧
  ➂静脈血栓
●呼吸器系への影響
  ➀換気障害
  ➁誤嚥性肺炎
●まとめ

 
【循環器系への影響】

長期に渡る安静臥床により、心機能、循環器機能に様々な廃用症候群が発生します。
低運動が続くことで、心臓のポンプ機能が低下し一回心拍出量が減少します。拍出量が減少することで安静時や運動時心拍数の増加、循環血液量の減少に伴い、全身の血液循環が悪くなってしまいます。このようなことから血管運動調節機能(血圧調節)の低下や血液の粘性の増加、心機能の低下による運動困難などが発生します。
これらの症状を➀運動耐容能低下➁起立性低血圧③静脈血栓に分け、それぞれの症状を詳しくみていきましょう。
➀運動耐容能低下
運動耐容能とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。
循環機能として酸素運搬機能に不動が影響すると、全身持久力低下により、脱力感や易疲労性が生じます。
20 日間のベッドでの安静臥床により、健康な若年男性の最大心拍出量が 26%減少したという報告がされています。これは、心筋の萎縮による心機能変化と循環血液量の減少によるものと考えられます。
全身持久力は、最大酸素摂取量を測定することにより評価できます。臥床日数が長くなればなるほど最大酸素摂取量は減ってきます。最大酸素摂取量は心臓のポンプ機能と骨格筋の酸素利用能により決定されるので、廃用症候群によりの両者が低下したことで最大酸素摂取量が減少したと考えられます。ただし、トレーニングにより心機能や最大酸素摂取量が回復することが証明されており、さらに全身持久力の低い人は、トレーニングにより最大酸素摂取量を元の値よりさらに増加させることができることを報告しています。
➁起立性低血圧
臥位から急に立ち上がった際に、立ちくらみ、めまい、収縮期血圧の低下などを生じる起立性低血圧も廃用症候群による循環器への影響の代表的な症状です。立つことにより血液が下肢に貯留され、静脈還流量が減少し、心臓の拡張期容量が減少することで収縮期血圧が低下し、その結果、脳の血液循環が低下して、めまいなどを起こします。
また、不動や長期臥床で交感神経活動が障害されるため、下肢の血管収縮が不十分となり静脈還流量が減少することで1 回心拍出量の低下をもたらし脳血液量が低下します。高齢者や重症の患者さんは 2~3 日で出現することもあります。主な症状は顔面蒼白、発汗、めまい、軽い頭痛などで、ひどくなれば失神をきたすことになります。いったん破綻した交感神経系の機能を戻すにはかなりな訓練期間を要します。
要するに循環血液量低下と血管運動調節機能障害、心筋機能の低下が、起立性低血圧や眩暈や失神症状を引き起こしてしまうということになります。
➂静脈血栓
廃用症候群による循環器への影響の中でも非常に危険な症状が深部静脈血栓です。
不動による下肢筋群の筋収縮-弛緩ポンプ作用の減少が、血流の停滞、循環血漿量の減少による血液凝固能を亢進させて、静脈血栓が生じます。
循環血液量は安静臥床後 2 週間で血漿量の 8~12%、2~4 週間で 15~20%減少するといわれています。その結果、血液粘稠度は増加し静脈血栓の危険性が高まります。
つまり、血液がドロドロになってしまい、血栓と呼ばれる血の塊が出来てしまうということになります。
血栓は特にふくらはぎにあらわれやすく、むくみや痛みの原因にもなります。
また、血栓は血流にのって全身に運ばれ、血管を詰まらせることがあり、肺動脈を詰まらせる肺血栓塞栓症が代表的です。肺血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」という名称でも知られています。
肺血栓塞栓症になると、肺での酸素・血液の交換がうまく行われなくなり、症状を放置すると、呼吸不全や低血圧によって命を落とすこともあるため、深部静脈血栓の予防や早期発見と早期治療が必要です。

 
【呼吸器系への影響】

廃用症候群による呼吸器系への影響として挙げられるのは、息切れや誤嚥などです。
筋肉といえば腕や脚のイメージが強いですが、咽頭部や体内にも存在します。
たとえば呼吸をするときは、呼吸筋(横隔膜と肋間筋)が収縮しますが、呼吸筋が衰えると、肺の伸縮がうまくいかなくなったり、肺の中の空気を十分に出し入れできなくなったりする換気能力の低下により、軽い運動でも息切れしやすくなります。
また、咽頭部周囲の筋肉が衰えると食べ物や水などをうまく飲み込めずに気管に入ってしまう「誤嚥」が起こりやすくなります。
飲み込んだものが気管支に入り、むせたり肺炎になったりすることも少なくありません。
誤嚥による肺炎は「誤嚥性肺炎」と呼ばれ、高齢者には命の危険のある疾患です。
これらの症状を➀換気障害、➁誤嚥性肺炎に分け詳しく解説していきます。
➀換気障害
長期に渡る安静臥床により呼吸運動も少なくなり、胸郭の可動性の低下、横隔膜や肋間筋の運動が制限され、筋力が低下します。
呼吸筋の筋力低下、胸郭の可動域制限は、一回換気量、分時換気量、肺活量、機能的残気量の低下を減少させ、その結果、拘束性換気障害が生じます。つまり肺活量の減少や1回換気量の減少です。また換気量が減少することと過剰拡散が生じるために換気血流比が不均一となり、動脈血酸素濃度も低下します。
さらに、換気量の減少と腹筋群の筋力低下などにより咳嗽力(がいそうりょく/咳をする力)も低下します。咳をする力が弱まることで誤嚥のリスクも増加し、その結果、肺炎や無気肺なども生じることがあります。
➁誤嚥性肺炎
物を飲み込む働きを嚥下機能、口から食道へ入るべきものが気管に入ってしまうことを誤嚥と言います。
背臥位の姿勢が続くと、重力によって細気管支のより低い部分に粘液が溜まり、気管支線毛の浄化機能が損傷され、細菌感染の基盤となってしまいます。このような場合では口腔内の清潔が十分に保たれていないこともあり、口腔内で肺炎の原因となる細菌がより多く増殖してしまいます。また、咳反射が弱くなり嚥下機能が低下し、その結果、口腔内の細菌が気管から肺へと吸引され、肺炎を発症します。
誤嚥性肺炎は、嚥下機能障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。肺炎球菌や口腔内の常在菌である嫌気性菌が原因となることが多いとされます。
また、栄養状態が不良であることや免疫機能の低下なども発症に関与してきます。
発熱、咳、膿のような痰が肺炎の典型的な症状ですがこれらの症状がなく、なんとなく元気がない、食欲がない、のどがゴロゴロとなる、などの非特異的な症状のみがみられることが多いのが誤嚥性肺炎の特徴です。
治療としては抗菌薬を用いた薬物療法が基本ですが呼吸状態や全身状態が不良な場合は入院して治療を行います。同時に口腔ケアの徹底、嚥下指導も重要です。

 
【まとめ】

廃用症候群の中でも骨格筋の筋力低下や関節可動域制限についてよく注目されてしまいますが、深部静脈血栓症や誤嚥性肺炎など命に直結してしまうような影響もたくさんあります。
第一に廃用症候群を引き起こさないことが重要なポイントになりますが、一旦発症してしまうと、その回復は特に高齢の場合、困難になってしまうケースがあります。できるだけ予防に努めることが大切です。
骨格筋や関節可動域に関してもそうですが、循環器や呼吸器への影響を最小限にするためにはリハビリが必要です。身体を動かすリハビリはもちろん、嚥下機能や呼吸に関する筋へのリハビリ、栄養管理、口腔ケアを行い、予防に努めましょう。

 
【参考文献】

1)一般社団法人 日本呼吸器学会
2)伊藤良介.廃用症候群.日本義肢装具学会誌Vol.14 No.1.1998
3)長尾光修.Ⅰ.診断と病態 9.運動耐容能.日本内科学会雑誌 第90巻 第5号.2001
4)佐藤知香ら.安静臥床が及ぼす全身の影響と離床や運動負荷の効果について.Jpn J Rehabil Med vol.56 no.11.2019
5)園田茂.不動・廃用症候群.Jpn J Rehabil Med vol.52 no.4/5.2015

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