廃用性筋萎縮ってなに?
廃用性筋萎縮ってなに?
筋肉や神経に障害がなくても、筋肉を使用しなければ「萎縮」といって筋肉が痩せてきてしまいます。これを「廃用性筋萎縮」といいます。
今回のブログでは廃用性筋萎縮がどのようにして起きてしまうのか、どう対処するのかをまとめています。
【目次】
●廃用性筋萎縮とは
●廃用性筋萎縮の発生メカニズム
●廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?
●まとめ
【廃用性筋萎縮とは】
廃用性筋萎縮とは、ギプス固定や不動化、長期臥床、宇宙での無重力下での生活後などで生じます。つまり、身体活動不足によって筋肉量が減少し、筋力や身体機能の低下が生じる状態を指します。これは、筋原線維の萎縮、筋組織の脂肪変性、筋肉の脱力性の増加などの生理学的変化が関与していることになります。身体活動不足が原因とされるため、高齢者や寝たきりの方に多く見られ、特に腰や下肢など大きな筋肉群に影響を及ぼす傾向があります。
廃用性筋萎縮による筋肉への影響は、筋力や柔軟性、弾力性、筋肉酸素供給量、筋肉代謝などの機能低下につながります。また、筋肉量の低下は、体軸の安定性や姿勢制御の悪化、関節可動域の制限、骨密度の低下、身体能力の低下などにつながることが知られています。
廃用性筋萎縮は、概ね1日あたり1%のペースで進行していくという報告があります。
ちなみに、加齢による骨格筋の喪失は1年あたり0.5~1%のペースといわれております。
しかし、廃用による筋委縮のペースは常に一定ではなく、不活動が始まった最初の30日間で筋萎縮が特に進みやすいと言われており、30日以降では筋萎縮の程度が軽減するという研究データもあります。
通常、最大筋力の30%の筋活動があれば筋力は維持することができ、40%以上の筋活動であれば筋力増強、20%以下であれば筋力は低下をしていくことが報告されています。
筋活動が無い場合の安静臥位などが多い場合では1日に3~6%、1カ月で50%低下すると言われています。
安静臥床による筋力低下(厚生労働省調べ)
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1週間
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20%
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2週間
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36%
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3週間
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68%
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4週間
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88%
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5週間
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96%
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※上記の数値はベッド上でほほ活動していなかった場合の数値になります
【廃用性筋萎縮の発生メカニズム】
廃用性筋萎縮が発生するメカニズムとしては、筋肉の不活動によって筋肉量が減少することが挙げられます。筋肉が使用されないと、筋線維は萎縮し、筋肉量が低下します。このため、筋力や柔軟性、弾力性などの機能が低下し、関節可動域が制限されることがあります。
筋萎縮には「筋タンパク質」が関係してきます。
筋タンパク質とは筋肉を構成するタンパク質の総称で、収縮に直接関与するアクチンとミオシンのほかに、トロポニンなどの調節タンパク群などがあります。
一般的には健康な成人において、筋タンパク質は合成と分解を繰り返し、合成される量と分解される量は等しく保たれています。
廃用性筋萎縮では筋タンパク質の合成と分解のアンバランスによる筋タンパク質の減少によって引き起こされる筋線維の萎縮(筋断面積の減少)が生じてしまいます。つまり、筋タンパク質の合成を分解が上回ってしまうことで筋萎縮が生じるということになります。
廃用性筋萎縮による影響は筋線維タイプによっても差がある事が知られています。
廃用性筋萎縮は、速筋線維(TypeⅡ線維)よりも遅筋線維(TypeⅠ線維)の方が進みやすいと言われています。
遅筋線維(TypeⅠ線維)の割合が減少し、速筋線維(TypeⅡ線維)の割合が増加する速筋化と呼ばれる筋線維タイプ移行が生じます。
また、伸筋(関節を伸ばす筋肉)よりも屈筋(関節を曲げる筋肉)の方が廃用が進みやすいとも言われております。
これらは特に高齢者で著明にみられることが多いです。これによって、日常生活での動作が困難になり、転倒や骨折のリスクが高まることがあります。他にも、病気や手術、骨折などが原因で寝たきり状態になる場合も、廃用性筋萎縮が発生しやすいとされています。
廃用性筋萎縮には、特に高齢者において起こりやすいとされていますが高齢者においては、筋肉量や筋力が低下することが生理的な現象として認められており、これはサルコペニアと呼ばれています。サルコペニアは、年齢による筋肉量の減少に加え、身体活動の減少、病気や栄養不良などによっても引き起こされます。サルコペニアでは速筋線維(TypeⅡ線維)が優位に萎縮する傾向にあります。高齢者が廃用性筋萎縮を発症した場合、遅筋線維(TypeⅠ線維)と速筋線維(TypeⅡ線維)の両方線維が萎縮してしまいます。そのため、高齢者に対する廃用性筋委縮の治療には、高齢者特有の状況を踏まえたアプローチが必要であり、多職種でのチーム医療が望ましいとされています。
【廃用性筋萎縮にはリハビリが効果的!?】
リハビリテーションにおいては、主に徒手療法や運動療法、物理療法などが行われます。これらの方法によって、筋肉量の増加や力量の向上、関節可動域の拡大などを促し、廃用性筋萎縮の進行を遅らせることができます。特に、筋力トレーニングは、筋肉を刺激して強くすることで、筋肉量の増加や力量の向上を促すことができます。
筋力トレーニングにおいては「レジスタンストレーニング」という方法が推奨されています。
レジスタンストレーニングとは筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。レジスタンス(Resistance)は和訳で「抵抗」を意味し、運動する人の状態や目的によって自分の体重(自重)やゴム製のチューブ、ダンベルなどで抵抗(負荷量)を調整して行うことができます。
高齢者やコンディションが調節できていない状態にある場合は中等度の強度(最大筋力の60~70%程度)で10~15回を1セット以上行うことが推奨されています。
廃用性筋萎縮では特に下肢、脊柱起立筋などの抗重力筋にみられることが多くなっています。
どの部位に筋萎縮が生じているかを評価し、状態に合わせてトレーニングを開始していくことが望ましいです。また、筋萎縮が起きやすい部位のトレーニングを早期から行うことで廃用性筋萎縮の予防にも繋がってきます。
そしてリハビリテーションを行う上で注意しなければならない重要なことがあります。
それは「過用性筋損傷」です。
過用性筋損傷とは、激しい運動を行うことにより筋細胞に部分的な崩壊が起こることです。
廃用性筋萎縮を発生している時点ですでに筋肉は脆くて弱い状態にあります。この状態でさらに激しい運動や負荷の高い運動を行うことで筋の崩壊はますます著しくなってしまいます。
廃用性筋萎縮になってしまったからといって闇雲に筋力トレーニングをすればいいのではなく、病状や病態に合わせたリハビリプランを組むことが非常に重要です。
また、筋の収縮様式(筋肉の収縮の仕方)にも注意しなければならず、求心性収縮や等尺性収縮に比べ、遠心性収縮の場合の方が過用性筋損傷を引き起こしやすいことから、筋運動の負荷量と筋の収縮様式に十分注意しながらリハビリを進めていくことが望ましいと考えられます。
【まとめ】
廃用性筋萎縮は、運動不足や寝たきり状態などによって引き起こされる筋肉の萎縮であり、高齢者や寝たきりの患者さんには特に注意が必要です。リハビリテーションや身体活動が効果的な治療法とされていますが、専門家の指導や支援が必要です。
さらに、廃用性筋萎縮の治療には、予防的なアプローチも重要です。例えば、高齢者や寝たきりの方には、定期的な身体活動や運動が推奨されます。これによって、筋肉量や筋力を維持・改善し、廃用性筋萎縮の予防につながります。また、栄養面や生活習慣面の改善も重要です。適度な栄養摂取や適切な睡眠、ストレス管理などが、筋肉の健康状態を維持するために必要です。
廃用性筋萎縮による筋力低下や活動量低下を戻すには時間を要するケースがほとんどです。
廃用性筋萎縮を引き起こさないためにも日ごろから運動習慣をつけることも予防策の一つになります。ケガや病気をしてしまった状態でも医師や理学療法士などの医療スタッフの指示の元、できる限りの運動を行うように心がけましょう。
【参考文献】
1) 髙木大輔.廃用症候群とレジスタンストレーニング.健康科学大学.2021
2) 越智ありさ.廃用性筋萎縮とアミノ酸.生化学第86巻第3号.2014
3) 灰田信英.廃用性筋萎縮の基礎科学.理学療法学第21巻第2号.1994
4) 町田修一.加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)発症の分子機構の解明とその治療・予防法の開発.Jpn J Rehabil Med vol.44 no.3.2007
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